50話 今宵の佐伯はちょっと違う
夕方、キャンプ場の指導員らしき女性にテントの建て方を教わりながら、俺たちは3人用と2人用のテントを設置した。
夜になると、BBQ2回戦が始まり、町張と俺は調理担当に回り、佐伯姉妹は食べる担当、玉里はなんかずっと何か喋っていた。
そして、夜に近づくと、各々寝支度を始めた。
玉里と町張、美代の三人は、三人用のテントへ入っていく。
「じゃあ古徳くんと佐伯ちゃんは、"楽しい夜"をごゆっくり〜。声とか漏れても気にしないからね♡」
「うるせえ。あんまり変なこと言うと流石に怒るぞ」
「きゃっ、古徳くん、お仕置きだなんて、大胆すぎー」
俺が右腕を上げると、玉里は頭を抱えながらテントの中へ逃げるように入っていった。
二人用テントの前に取り残された俺と佐伯は、夜風の音を聞きながら無言でテントに入った。
佐伯は、下は黒で上はライトグレーのジャージを着ており、長袖なので蚊に刺され対策もバッチリ。
でも長袖なので、暑くないのかと思ったが、テントの中には、持ち運びできる扇風機や、クーラーボックスにキンキンに冷えた飲み物などなど、暑さ対策はされていたので、大丈夫そうだ……いや、キャンプにしては快適すぎるだろ。
「「…………」」
俺たちは謎の気まずさがありながらも、お互いの寝袋を広げる。
頭上の明るすぎるランタンの灯で、準備をする俺たちの影が揺れていた。
普段なら「美代が〜」とかで何個も会話が生まれるのだが、この夜だけは特別な空気があった。
そんな空気を感じ取りながら、俺が言葉を探していると、佐伯が先に口を開いた。
「み、道藤さんって、変わってるわよね」
「今さらかよ」
「だって……今日一日を通して、絶対に大狼くんのことが好きなのに、独占する気がないというか」
「……あいつは、楽しいことが好きなんだよ。お前たち姉妹や町張みたいな自分とは全く違う性格の奴らと遊ぶのが、きっと大好物なんだ」
「そう……まあ、気持ちは分かるわ」
「分かるなよそんなもん」
佐伯はクーラーボックスから2本のペットボトルを取り出し、一本を俺の方に差し出した。
汗をかいたペットボトルから、水滴がちょろっと佐伯の肌を伝う。
「乾杯しましょ? 二人だけの、夜に」
「………お、おう」
佐伯がやけに色っぽい言い方をするので、俺は体がビクッと反応してしまう。
玉里のせいで、夜、というワードが、そっちの意味に聞こえるのだ。
俺と佐伯はペットボトルで、コツンと乾杯して、蓋を開ける。
少し汗が見える佐伯は、喉が渇いていたのか、いい飲みっぷりで、ペットボトルのスポーツ飲料を口にした。
俺はチビっと飲み、蓋をする。
「佐伯……さ、俺なんかと寝るの、嫌じゃないのか」
「……あの勝負に勝ってしまったのだから、仕方ないじゃない」
「そ……そうだよな」
佐伯は罰ゲームに付き合わされてるだけだよな……。
ったく、玉里のやつのせいで町張や佐伯にこんな迷惑を、
「でも……あなただから、嫌じゃない」
佐伯はそう呟くと、佐伯は俺の方に手を伸ばし、俺の腕を掴んだ。
「いきましょ……」
今宵の佐伯は、少しだけ違った。
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