48話 砂浜デートはアツアツの恋バナ


 ビーチフラッグの後に、2位の罰ゲームで町張と二人で浜辺散歩に行け、と玉里に尻を蹴られ、俺は今、町張と一緒に砂浜を二人で歩いている。


 灼熱の太陽の下で、生温い浜風が頬を撫でる。


「……変なことに、なっちゃったね」


 俺の隣で海側を歩く町張は、はにかみながら恥ずかしそうに言った。


 俺は俺で、町張と何を話せばいいのか分からず、ただ足に感じる鉄板のように熱い砂を、鬱陶しく思っていた。


「さっきのビーチフラッグ、頑張ってたな。さすが文武両道の委員長」

「その定型文みたいな褒め言葉やめて。わたしなんて大したことないし、実際に決勝は佐伯さんに負けちゃったしね」

「まあ……佐伯はなんだかんだ興味があれば本気出すからな」

「興味があることはさ……佐伯さんって、大狼のこと好きなんじゃないの?」

「は?」

「佐伯さんもそうだし、美代さんも、道藤さんも……大狼、モテモテだねー?」

「な、なわけないだろ! 俺、こんな幸薄そうな顔してるし、性格も色々終わってるし!」

「自分で言うかな、それ?」


 町張は呆れ顔で肩を竦めていた。


「大狼って捻くれてるけど、なんだかんだで周りのことよく見て行動するじゃん」

「周りのこと?」

「文化祭の時もそうだったけど、文化祭後の焼肉とかにもしっかり来たでしょ? 本当に捻くれてる人って、文化祭も参加しないし、打ち上げもサボると思うし」

「それは……玉里に」

「本当に捻くれてたら、幼馴染に誘われても無視すると思うなー」

「……ぐっ」


 町張は珍しくニタァっとした顔で俺の顔を揶揄い気味に覗き込んでくる。


「大狼はさ……一人の時間が好きなだけで、みんなといる時間が嫌いなわけじゃないんだよ」

「お、俺のなにが分か」

「分かるよ。だって、学級委員長だもん」


 何だその言い分。

 秀才・町張向日葵にしては、何の捻りも無かった。


「大狼は、どう思ってるの?」

「……あの三人のことか?」

「うん」


 まだ続けるのかこの話。

 町張って、お堅い印象が強かったが、意外と恋バナとかするんだな……これが恋バナなのかも分からんが。


「道藤さんとは長いんだよね? いつもベタベタしてるのに付き合わないのはなんで?」

「知るかよ」

「知るかって……道藤さん、絶対大狼のこと好きじゃん。とっくに告白とかされてるんじゃ?」

「されたこと無い。ふざけて『大好きー』とかは日常茶飯事だが、この10年で一度もそんな話はしたことがない」

「へえ……。じゃあ美代さんは? あの子も絶対、大狼のこと好きだよね」

「あれは、"ミニモンができる"俺に興味があるだけの激ヤバ女子高生だろ。口も悪いし目つきも悪いし態度もデカいし。可愛いことしか取り柄ないし」

「うわ、なにそのトゲしかない言い方」

「まあ美代は、あの佐伯と双子って割には、やけにベタベタしてくるとは思うがな」

「……おっぱいも大きいもんね」

「な、なんだよ藪から棒に」

「大狼、あんまり女子の胸に見ない方がいいよ、女の子って大き子ほど視線に敏感だし」

「よ、余計なお世話だ! 俺は、見てねえ」

「嘘だ。わたしのも見てたし」

「見てねえ!」


 町張はジトーっとした目を俺の方に向けた。

 み、見てない……と、言いたいが、これからは少し気をつけよう。


「最後に、本命の佐伯さんは?」

「本命ってお前、別に俺は佐伯のこと」

「でもさ、大狼って佐伯さんと話してる時が一番楽しそうだよ?」

「楽しい? んなわけ!」

「いつも目を見て話してるし、相棒? みたいな距離感っていうか」

「な、ないない」

「照れてるねー」

「ないない」


 俺は否定の言葉を必死に探った。

 でも、よく考えたら町張の言うように、佐伯と話す時っていつも目を見て話してるような。


「二人が同じテントなのは仕方ないけど……度を超えた行為が確認されたら、委員長として止めに入るからね」

「ど、度を超えたって……いや、ならないからな」

「どうだろうねー。まあ、わたしが寝ちゃってたら、止められないんだけどっ」


 町張は「ふふっ」と笑みをこぼして、前を歩き出す。

 度を超えた行為……ないな、絶対。

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