46話 佐伯vs美代の姉妹対決


 ついに始まってしまった【誰も得しないビーチフラッグ対決】。


「一戦目は、佐伯ちゃんvs美代ちゃん!」


 初っ端からバチバチ姉妹対決かよ……。

 雑に引かれたスタートラインから約20メートル先にフラッグがあり、スタート審判は玉里で、フラッグの近くには町張が構えている。


 そしてこの勝負の景品である俺は、ダラーっと足を伸ばしながらパラソルの下で座って、適当にその様子を眺めることに。

 ちょうどパラソルがスタートラインとフラッグの中間くらいの場所にあるので、途中で不正がないか見るように言われた。


 スタートラインの前で、佐伯姉妹が屈伸をしながら準備を進めている。


 インドア派の美代が勝てるとは思えないし、佐伯の圧勝だと思うが……。


 美代はこっちに向かって、グッと親指を立てる。

 無視したら面倒なことになりそうなので、俺は適当に手を振り返した。


 やけに美代が自信ありげなんだよな……。

 運動とか嫌いそうなイメージだったが、意外とできる感じなのか……?


 俺が美代の方を見ていたら、今度は佐伯が俺に向かって、小さく手を振ってくる。

 はぁ……佐伯まで何やってんだ。


「さぁゲート揃いました! 位置についてー!」


 佐伯姉妹の目が真剣マジになる。

 今、あの二人の進路を邪魔しようものなら、一瞬で消し飛ばされそうなくらいの殺気にも似た集中力。


「よーい、スタートッ!」


 ダッ! と、二人が足元の砂を飛ばしながらスタートを切る。

 20メートル先にあるフラッグに向かって走り出し、波風に逆らうように二人は肩と肩をぶつけ合った。


 この姉妹対決、色んな意味で凄い迫力だ……。

 俺は少し前屈みになりながら、佐伯たちの"顔"を見ることに集中する。

 揺れまくる胸元は……見ないでおこう。


「「……っ!」」


 若干、佐伯が先行して、俺の前を通過したが、美代の足も負けてない。

 ほぼ互角……だ。

 美代は、運動得意じゃないと思っていたが、結構頑張ってるじゃないか。

 そう、俺が感心した刹那だった——。


「……姉さん、下ポロってる。古徳ガン見してるよ」


 と、言っているのが薄ら聞こえる。

 こ、こいつ、卑怯な……。


「その手には乗らないわ」

「ホントだよ、下見て」

「……っ」


 佐伯の意識が一瞬下に向いた瞬間、美代が砂をさらに踏み込み、再加速スピードアップする。


「負け、ない!」

「しまっ……」


 美代は佐伯よりも先にヘッドスライディングをして、フラッグを手中に収める。

 勝利した美代はご機嫌な様子で、旗を振りながら俺の元へやって来た。


「勝ったよ。褒めて」

「ガッツリ、ズルしてんじゃねぇか」

「ささやき作戦は立派な戦略。騙される方が悪い」

「……それは、そうかもしれんが」


 俺と美代が話していると、息を切らした佐伯がこちらへ寄ってきた。


「ちょっと大狼くん! あなたも聞こえてたでしょ? 走ってる時に美代が!」

「姉さんは弱い……真剣勝負の最中に余計なことが頭を過った。仮に私なら、古徳におっぱい見られても恥ずかしくない」

「お、おい、変なこと言うなよ美代」

「くっ……」


 佐伯は珍しく歯を食いしばって怒りの感情を剥き出しにしていた。


「とにかく、これは不正だからな? 玉里に言いに行く」

「どうして? 古徳は私と寝たくないの? 私とならきっと楽しい夜になる……ミニモンもやれるし」

「お前の本望は最後のだけだろ。そもそも俺は誰とも寝たくない。ほら佐伯、一緒に不正を言いに」


「大狼くん、この勝負は私の完敗よ」


「は?」


 佐伯は吹っ切れたような様子で、一つに縛っていた髪を解く。

 髪が広がり、甘い香りが辺りに広がった。


「あと2戦……全部勝つからあなたはそこで見てなさい」

「佐伯……」


 どうしてこんな不毛な戦いで、スポ根漫画みたいになってんだ。

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