44話 夏だ!海だ!水着回だ!


 玉里が戻ってくると、俺たちはキャンプ場に荷物を置き、日中は海で過ごすというスケジュール通りに目の前にある海へ。


「あっちぃ……」


 8月の焼けるような太陽の日差しを全身に受けながら、先に水着に着替え終わった俺は、一人で火傷しそうな熱さの砂浜を歩く。

 ビーサンを履いているが、有って無いように思えるくらいに熱い。

 夏なのに俺の他には釣り人くらいしかいないやけに静かな海。

 これだけ熱いと、人も来ないものなのだろうか。

 俺は青いボードショーツを下に履き、ビーチパラソルを右肩にかけながら、もう片方の手に折り畳まれたビーチマットを持って移動する。


「この辺でいいか」


 砂浜の上にマットを敷いてから、ビーチパラソルを広げて、俺はその影の下でのんびり寝転がった。


「にしても、あいつら遅いな……」


 佐伯たちの水着……か。


 別に期待してるわけじゃない。

 ただ、どんな水着を着るのかは……少し気になるところではある。

 どうせ玉里はあざといスク水なのだろうが。


「おっまたせー! 古徳くーん!」


 俺はその声を聞いて反射的に身体を起こす。

 別に……ソワソワしてるとかじゃない。

 単に、ちょっと、ほんのちょっとだけ、やはり男の性には逆らえ——っ


「な……っ」


 変な声が漏れるくらいの衝撃。

 パラソルまで走ってきた玉里の水着は水玉模様の"マイクロビキニ"だった。


「見て見てー! 古徳くんが大好きな面積が小さめの水着にしたよっ?」


 そう言って恥ずかしそうにはにかむ玉里。

 い、色々とまずいだろこれ。

 肌の日焼け具合から察するに、ハワイではもっと面積のある別の水着だったはず。

 こいつ、普通の水着持ってんのに、わざとこんな破廉恥な水着を……。

 少し前屈みになったら肩紐が緩んでポロリするんじゃ……。


「もー、古徳くん見過ぎー」

「そ、そんな見てねえ」


 俺が目を逸らすと、佐伯と町張が後から来るのが見えた。


「お待たせ、大狼」


 町張の水着は水色のオフショルビキニで、頭には焦茶のストローハットを被っており、髪はいつものポニーテールを解いて肩まで流している。


「……っ」


 俺の視線を感じたからか、町張は咄嗟に手で腹部を恥ずかしそうに隠す。

 引き締まってるし、全く気にする必要ないと思うが……。


「大狼くん、視線がいやらしいわよ」


 そう言って、サングラスを掛けた佐伯が横から割って入ってきた。

 いつもの流した髪を一つに纏めている佐伯は、大人びた黒ビキニを着ており、雪のように白いその肌と黒いビキニとのギャップが凄い。


「町張さんのお腹を見て、なに興奮していたのかしら」

「興奮ってお前」

「は、恥ずかしいから……あんま見ないで」

「いや、マジで見てねえから!」

「嘘よ」


 佐伯が町張を庇うように、俺の前に立った瞬間、佐伯の胸元がたゆんと揺れるのが間近に見えてしまう。

 佐伯って、いつも美代のことを胸でイジってるけど、自分の胸が大きいって自覚ないのか?

 いつもは制服で隠れた、佐伯の真っ白な胸元に、つい目が……。


「……っ」


 俺は目のやり場に困り、最終的に佐伯の顔を見つめる。


「あら? 胸を見るか顔を見るかの二択になったのかしら?」

「そんな二択は存在しない」

「大狼くんも、やっぱり頭の中は男子高校生なのね。あきれた」


 佐伯はサングラスを外しながらため息を吐く。

 腹立つな、こいつ……。


「あれ……そういや美代は?」

「ここにいる」


 佐伯に訊ねた瞬間、佐伯の背後から美代が忍者のように姿を現し——って。


「古徳、呼んだ?」

「呼んだ? じゃね———って、おまっ! その水着はっ」


 美代が着ていたのは——まさかのスクール水着だった。


 胸元には『さえき』とひらがなで書かれたワッペンが付いているのだが、それが今にもはち切れそうなくらい、美代の胸は——で、デカい。

 横に広がりすぎて文字が読めなくなりそうだ。


 美代のスタイルは、佐伯と同じくらい引き締まってるところは引き締まってんのに、胸だけは、やっぱ佐伯よりもデカく映る。

 そこら辺のグラビアアイドルよりいいスタイルしてる……まだ高一なのに。


「いくら古徳でも、あんまりおっぱい見られると……恥ずかしい」

「あ、いや…………す、すまん」

「なぜ美代の時だけは『見てねえっ』て否定しないのかしら」

「み、見ちまうだろ……そりゃ」

「…………こ、古徳の、えっち」


 俺と美代がお互いに目を合わせられずにいると、佐伯は舌打ちしながら俺の鼻をグリグリしてきた。


「なんで怒ってんだよ佐伯!」

「……次、美代の胸をいやらしい目で見たら、手足縛って海に放り投げるわ」

「もう見ねえからやめろ」

「……別に、古徳は陰キャだし、可哀想だから、いいよ?」

「お前の姉さんにぶっ●されちまうから、もう見ねえよ」


 俺たちがわちゃわちゃしていると、急に玉里がホイッスルを吹いて視線を集めた。


「さーさー! みんなあったまってきた所で!」

「こんなクソ暑いんだから、さっきからアツアツだろ」

「はいそこ、話の腰を折らない!」


 マイクロビキニロリに注意をされる俺。


「そもそも海に来て何やるんだ? 俺はパラソルの下で本とか読んでたいんだが」

「私も、ミニモンやりたい」

「はいそこのインドア陰キャ二人! イチャつかない!」

「イチャついてはねーだろ」

「私……古徳みたいな陰キャじゃない」


 いや、美代は陰キャだろ。


「でも道藤さん、本当に何やるの? ビーチバレーとか?」

「最初はそれも考えたんだけど……あることを決めたいから」


 玉里が訳のわからない事を言いだすので、困惑する俺たち。


「お、おい、玉里、お前まさかまた変なこと」


「それではみんな! 今から古徳くんと同じテントで寝れる権をかけて、ビーチフラッグ対決をします!」


「「「「は?」」」」


 こいつまたトンチンカンなことを……。

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