43話 海に着いたよ!


 キャンプ場へ向かうバスに乗ってから数十分が経過し、やっと車窓から海が見えてきた。

 少し開いたバスの小窓から潮風が入ってきて、俺たちは一斉に窓の方を見つめていた。


「うわぁー! 古徳くん、見て見てー、海見えたー」

「お前はハワイの海を散々見てきた後だろ」

「日本には日本の良さがあるからねぇ」

「良さって……」


 ハワイの透き通った海とそこら辺の日本の海とじゃ相手が悪すぎる。


 海を気の毒に思いながら目的のバス停に到着すると、俺たちは荷物を持ちながらバスから降りた。

 真夏の太陽に晒され、焼けるような暑さの中で歩き出す。


 当然女子たちは日焼けが気になるようで各々日よけの道具を持参していた。

 無論、俺はそんなのを気にもしてなかったので、適当にバスタオルを頭に掛けて歩く。


 そこからしばらくは道路沿いを歩き、海岸近くの歩道に降りたら、海沿いのキャンプ場へ向かう。


 前に玉里が言っていたようにキャンプ場は貸切なので、まずは荷物を置き、日中は海へ行って日が暮れたらキャンプを開始するらしい。


「古徳、ちょっと」


 玉里を先頭に、町張、佐伯、俺、美代の縦列で歩いていたのだが、最後尾の美代が俺の背中を引っ張った。

 美代は左手で日傘を持ちながら、右手でスーツケースを引いている。


「どした、そんな険しい顔して」

「……古徳、リュックだけなら、私のスーツケース引いて」

「えぇ……」

「レディには優しくしないとダメ。引いてくれないなら姉さんに、ある事ない事」

「分かった。だから変なこと言うな」

「……えへへ、古徳優しい」


 こっわ。脅されてやってるのが分かってないのかこいつ。

 美代に逆らうと、佐伯にややこしいことを言うというのがかなり面倒なことになる。

 最近の俺、脅されてばっかりだな。


「さー、みんなこっちだよー」


 海岸沿いの道からキャンプ場の看板が見えてきて、その看板通りに歩いていくと、臨海にある緑の多い平地に開けたキャンプ場があった。

 キャンプ場は全体が小さな柵で囲われており、柵から遠くを見渡せば、一面の海が目に飛び込んでくる。


 玉里が、キャンプ場の担当者へ到着した旨を伝えに行ったので、俺たち四人は玉里を待つことに。


「……向日葵は、西洋哲学と東洋哲学ならどっちが好き?」

「わたしは西洋かな」

「私も西洋好き! モンテスとアリスト興味深い!」


 いつの間にか町張と美代が普通に会話していた。

 名門女子校主席と、うちの学年一位は天才同士、話が合うのだろうか。(モンテスキューのことモンテスって)


「あ、妹さん、腕に蚊が」

「ありがと……。向日葵って、なんかお姉ちゃんみたい」

「お、お姉ちゃん? そんなことないよっ、わたしと妹さんは同い年なんだし」

「美代のことは美代って呼んで」

「う、うん。じゃあ、美代さん」


 美代って、どっかの誰かと違って意外とコミュ力あるよな。

 と、感心していると、佐伯がその光景をツンとした顔で見ていた。

 実の姉としては、面白くないのだろう。


「町張の方が佐伯より姉っぽいことしてるんじゃないか?」

「……ふん。別に構わないわ。私には……大狼くんがいるもの」


 佐伯は、ポケットから薄ピンク色の綺麗に畳まれたハンカチを取り出すと、俺の額に当てて……って、え?


「なんだよ急に!」

「汗が出ていたから……拭いてあげただけ」

「お前、大丈夫か? 暑さにやられたか?」

「……少し優しくしただけで変人扱いされるのは、さすがの私も傷つくのだけど」

「お……おう。それは、ごめん。ありがとな、佐伯……」

「え、ええ」


 ただでさえ暑いってのに、なんか余計に暑くなってきた。


「姉さん、こんなクソ暑いのに、付き合いたてのカップルみたいにいちゃつくな」

「黙りなさい。あなたこそ、大狼くんに荷物を引かせてマウント取っていたくせに」

「どんなマウントだよ」


 ただでさえクソ暑いのに佐伯姉妹の喧嘩まで始まったら地球温暖化どころの騒ぎじゃないぞ……。


「まあまあ二人とも」


 俺が困っていると町張が二人の仲介に入ってくれた。


「楽しいキャンプなんだから、喧嘩はダメ。嫌なことも今日はみんな水に流そうよ? ね?」


「「…………」」


 町張に言われ、二人はこくりと頷く。


「お前ら二人とも町張の妹になっとけ」


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