42話 いざキャンプ場へ!


 真夏のクソ暑いロータリーに集まっていた、美少女たち。

 サングラスを掛けながら、白のオフショルトップスに黒のタイトスカートの佐伯雪音と、今日は意外と可愛げのあるコーヒー色のAラインワンピースを着ている美代。

 そしていつも通りポニーテールの町張は、薄手の白いシャツの上にビスチェを着て、下はデニムパンツという、意外と垢抜けた印象の私服姿。

 休日スタイルの彼女たちは、各々、大きめのスーツケースを持ってきており、まるで今からどこか旅行にでも行くようだった。


 ……いや、なに他人行儀に言ってんだ俺。

 どう考えても、これは——。


「おっまたせー古徳くん! みんなー」


 ガラガラッとスーツケースを引きながら、白のワンピースを靡かせ麦わら帽子を被った玉里が現れた。

 一昔前の王道ヒロインみたいな服装をした玉里は、俺の前までくると「今日のためにワンピース新調しちゃった♡」と要らない情報を付け足した。


「玉里、まずはこの状況を説明しろ」

「なに怒ってんの古徳くーん、内心は『うほー、美少女ハーレム旅行だせウリィィィィ』ってなってくせに」

「なるか! キャンプはお前と二人きりだって聞いてたのに」

「あら大狼くん。道藤さんと二人きりなら文句ないのかしら。二人きりで……何をするおつもり?」


 佐伯がサングラスを外してオフショルの胸元に掛けると、俺の鼻頭を人差し指でグリグリと押してくる。


「ち、違くてだな! 俺が言ってるのは」

「古徳、キモいから文句は後にして」

「美代……せめてお前は俺の味方でいろよ」

「なんで美代には味方でいろだなんて言うのかしら。毎日夜な夜な電話しているから? それとも美代とあなたって知らない間に懇ろな関係になったのかしら? 美代が『明日は古徳と旅行……新しいお洋服買って』とねだってきたからやけにおかしいと思っていたけど、まさかあなた、私の妹に手を出したの?」

「姉さん……それ古徳に言ったら姉さんでも●すって、行く前に話したよね」

「美代こそ、私の秘密をベラベラと彼に漏らしているのだから文句は言えないわ」


 朝からいつもの調子で睨み合う佐伯姉妹。

 佐伯のマシンガントークと、佐伯姉妹の姉妹喧嘩という贅沢二種盛りを見られた所で、俺は玉里に「経緯を話せ」と今一度説明を促す。


「いやぁ。そもそも最初からあたしは古徳くんの二人きりでキャンプに行くつもりはなかったと言うか」

「は?」

「だって古徳くんと二人でキャンプに行ったところで、ノリ悪い古徳くんの事だから、どうせキャンプ場に行っても本読んだりゲームするだけでしょ?」

「それは……まあ」


 玉里の言っていることに間違いはない。

 なぜなら玉里の言うように、俺はリュックの中に数冊の文庫本と携帯ゲーム機を忍ばせていたからだ。


 そりゃ俺のことをよく知ってる玉里からしたら、俺がノリノリでバーベキューやったり、海で遊んだりするわけないのだから、他の友達呼ぶのが当然の成り行きか。


「なーに古徳くん? もしかしてあたしと二人きりじゃなくて残念なのぉ?」


 玉里がそう煽ると、佐伯姉妹の視線が一斉に俺の方へ集まる。

 なんでそんな人を●すような目をしてるんだこの二人……。

 そんな感じで俺たちが話していると、俺たちが乗るバスがロータリーに到着した。


「さぁ、みんな行くよー! いざ、海の見えるキャンプ場へ!」


 テンションが異様に高い玉里についていくようにして、そこまでテンションが上がっていない俺たちもバスへ乗り込んだ。


 ✳︎✳︎


 俺たちが乗ったのは駅発えきはつのバスなので、まだ乗客はおらず、一番後ろの五人席に、左から俺、町張、玉里、佐伯、美代の並びで座った。

 佐伯姉妹が先に右隅に座ったのを見越して、反対側の左隅を選んだ理由は……まぁ、察して欲しい。


「大狼も、色々と大変だね」


 隣に座った町張が、同情してくれる。

 町張はずっと、あの訳のわからない姉妹と、イカれたロリの会話を目を丸くして聞いていた。


「正直、町張がいてくれて安心した」

「え? なんで?」

「だって、この中で常識人なのって俺と町張くらいだろ? あの三人は色々とヤバいから」

「そう言ってもらえると嬉しいんだけど……大狼は常識人じゃないよ?」

「どういう意味だよそれ」

「だって普段から色々と捻くれてるし」

「おまっ……頼むから俺をあいつらと同じにしないでくれ」

「あははっ」


 俺たちが会話していると、反対側から冷ややかな視線を感じる。

 美代か佐伯、もしくは両方か……?


「佐伯さんの妹、初めて会ったけど可愛いね?」

「外面だけだ、中身はヤバい」


 俺が小声でそう呟くと、急にスマホへlimeが入る。


『美代:うるさい。古徳の方が常識人のフリしたえっちで最低のゲス男。●●●●●るぞ』


 脳内変換で伏字を入れてしまうくらい、limeでも美代節は健在だった。

 年頃の女子が●●●●とか言うなよ……。


「佐伯ちゃんや町張ちゃん、あたしや妹ちゃんといい、古徳くんの周りって美少女ばっかり集まるよねー」


 二つ隣に座る玉里が、俺の方を見ながら言う。

 他三人は分かるが、玉里はただのロリだろ。

 そんなことを考えていたら、またしてもlimeが……って、佐伯か。

 とうとうラスボスからlimeが来てしまった。

 どうせ面倒くさいlimeだと思っていたが、案の定、面倒くさいlimeで……。


『さえき:最近、あなたに避けられているような気がするのはなぜかしら』


 そのlimeを見てから佐伯の方を見ると、佐伯は車窓の奥に目を向けていた。

 避けてなんか無い……と言いたいところだが、実際のところ、今もこうして避けてしまったから言い訳はできない。

 ホームパーティ以来、佐伯とlimeを交わしたのは、『夏休みの課題って何かあったかしら?』という佐伯の素朴な質問だけだったし。


「……ったく」


 俺は仕方なく『limeでいいから、バスの中でも話さないか?』とlimeを送り返した。

 すると、反対側に座っている佐伯がその内容を見るなり、俺の方を見て『ツ・ン・デ・レ』と口パクで伝えてくる。


 俺は呆れながらlimeで『ちげーから』と返す。

 その後は、周りには聞かれない、二人だけの会話がlimeの中で交わされた。

 あれから何をしたとか、どんな本を読んだとか……下手したら普通に会話するより、俺と佐伯は気軽に会話していた。


 久しぶりの佐伯との会話は、ちょっぴり、ほんのちょっぴりだけど、楽しかった……かもしれない。



—————————

ツンデレやないかい。


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イラストはなんと!人気イラストレーターの千種みのり先生に担当して頂ける事になりました!

星野星野デビュー作になりますので、何卒よろしくお願い致します!

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