38話 目と鼻の先には美少女が……?


「10分経ったから交代よ美代」


 俺と美代がテレビの前の黒いソファに座りながらミニモンをしていると、空のプリンカップを両手に持った佐伯が戻ってきた。


「交代制とは言ってない……またじゃんけんで決める」

「ダメよ」

「……まあいいや。じゃあ10分、部屋に行ってる。古徳は姉さんと乳繰りあって」

「んなことしねーっての」


 美代は舌をぺろっと出しながらリビングから出て行った。


「あなた……楽しそうにしてたわね」

「楽しかねえよ。お前ら姉妹のおもちゃにされてこっちは最悪なんだが」

「……満更でもないくせに」

「はぁ?」

「それに……さっきの"古徳"呼びは何なのかしら。私の居ない間に何をしたの? 胸でも揉んだの?」

「してねーし……なんでそんなイラついてんだ? めんどくさい彼女みたいだぞ」

「か、かのっ……」


 佐伯は唇をキュッと締めると、ソファーに座っていた俺を押し倒し、床ドンのように両腕で俺の退路を塞いで、上から見下してくる。

 目と鼻の先に、佐伯の整った顔があり、ゆらっと揺れる佐伯の程よく大きい胸が、俺の腹部に当たった。

 や、やや、柔ら……って!


「なにすんっ」


「勘違いも甚だしいわっ! 私はあくまでお友達として、あなたの不貞を指摘しているのっ! なに? もしかして、『佐伯って俺のこと好きなんじゃないか?』みたいなことを考えて鼻の下を伸ばしていたのかしら? は、恥ずかしいわね……? 自意識過剰もいいところだわ。私とあなたはお友達なんだし、キスや身体を重ねることも……ま、間違いがない限りあり得ないし、でもまあ、あなたがどうしても言うなら少しは考えてあげるけど、普通はあり得ないのだから、あなたは私のことを彼女がどうとか言う権利は無くて」


「落ち着け! 1ミリも勘違いなんかしてねえし安心しろ。あと、そのマシンガントークは二度とするな。次したら絶交だからな」

「ぜっ…………ご、ごめんなさい……つい」


 佐伯は息を整えながら、しょんぼりと身を縮ませながら俺を解放すると、俺の隣にちょこんと座った。

 黒いソファーに佐伯と二人で並んで座る。


「さ、さっきは。少し気が動転しただけ。半分は、嘘よ……」


 半分嘘って、どの部分のこと言ってるか分からんのだが。


「大狼くん……その、怒ってるのかしら」

「はぁ……今更こんなことで怒るかよ。もうお前のめんどくさいのにも慣れたし」

「り、理解者面しないで頂戴」

「お前こそ、時々俺の理解者面すんのやめろよ」

「…………」

「な、なんだよ」

「……私は、あなたのことを理解してるつもり。でももっと理解したかったから、あなたをホームパーティに呼んだのだけど……迷惑、だったかしら」

「佐伯……」


 佐伯はおもちゃとか、揶揄うために俺を呼んだんじゃ無かったのか……。

 そうか、佐伯は……。


「俺さ、夏休みに入ってから、お前に会わなくなって、一人でいる時間がやっぱり至高だと思ってた……でも」

「も、もしかして……私と一緒が、楽し」

「改めて一人の方が楽だって気づけた、ありがとな、佐伯」

「張り倒すわよ」

「お前らが悪いんだろ、散々俺をおもちゃにしやがって」

「おもちゃになんかしてないのだけど。客人として、しっかりもてなしたじゃない」

「客人に飯を作らせ、プリンまでぱしらせるホストがいてたまるかよ!」

「そ、それは美代も悪いのだから私ばっかり責めないで欲しいのだけど」


 いつものように言い合いに発展する。

 これにもだんだん慣れてきたもんだな。


「でもまぁ……正直言うとさ」

「なに? こんなところ来なかったら良かったって言うんじゃ」

「楽しかった。普通に」

「へ…………?」

「だから、まぁ……あんがとな、佐伯」


 自分でも、らしくないことを言ったと自覚している。

 でも……言っておきたいと、思えた。


「……デレ期かしら」

「ちげーよ」

「どちらにせよ、しっかりお礼を言えたのは偉いわ……撫でてあげる」


 佐伯は隣に座る俺の頭に手を伸ばし、優しく頭を撫でてきた。


「や、やめろ……って」

「あら、珍しく照れてるじゃない」

「照れてねえ!」


 俺は頭をふんっと振って佐伯の撫でから逃れる。


「……今日はこれくらいにしてあげる。さあ、私にもミニモンを教えなさい」

「ええ……


「美代が好きなのだから、どうせ子ども向けなのでしょうけど、お友達であるあなたとの共通の話題を私が作ってあげるわ。感謝して?」


 俺を撫でた辺りから急にテンションが上がった様子の佐伯。

 偉そうな態度にも磨きがかかっている。


「分かった。ガチ対戦は無理そうだし、ストーリーやるか?」

「ガチ? というのは分からないから、あなたに任せるわ」


 こうして佐伯はご機嫌な様子でミニモンを始めた。


 孤高の美女も、機嫌がいいとこんな感じなのか。


 ✳︎✳︎


【おまけ】


 10分後。美代が自室から戻ってきたのだが……。


「姉さん、今度は私が古徳からミニモンを……」


「大狼くん、ここのボスバトルのタイプ相性を教えてもらえるかしら」


 子ども向けと小馬鹿にしていた佐伯が一番ミニモンにハマった。


—————————

【あとがき】

佐伯可愛すぎんか……?


オーバーラップWEB小説大賞銀賞受賞作の

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🌸

イラストはなんと!人気イラストレーターの千種みのり先生に担当して頂ける事になりました!

星野星野デビュー作になりますので、何卒よろしくお願い致します!

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