37話 美代の気持ち。


 プリン泥棒(佐伯の逃亡)の被害に遭った後、佐伯と一緒にマンションに戻って来ると、妹が部屋着姿に着替えて待っていた。


「大狼遅い。もしかして姉さんと乳繰りあってた?」

「んなことしてねーよ」


 妹は猫耳フード付きのもこもこした白い部屋着に、ホットパンツというラフな格好で俺たちを迎える。

 サイズが合ってないのかと思うくらい、妹の胸元には膨らみがあり——。


「ちょっと大狼くん。私の妹を視姦しないでもらえるかしら」


 と、佐伯から怒られる。


「大狼はキモ陰キャだから仕方ない……私は別に、気にしない」

「あなた、そんなこと言って大狼くんに色仕掛けしたら許さないわよ」

「……姉さんもすれば良い。無いわけじゃないんだし」


 またこいつら喧嘩か……。


「プリン買ってやったんだからもう少し仲良くしろ」


 俺がそう言って仲介に入ると、佐伯たちは鼻を鳴らしながら、各々の席に座ってプリンを食べ始めた。


「んで、俺のプリンを当たり前のように持ってる佐伯は本気で俺からプリンを奪う気なのか? 血も涙もねえな」

「流石に冗談よ。でも……競争に勝った私のものではあるから、どうしようが私の勝手よね?」

「どうしようが?」


 俺が首を傾げる前に、佐伯は新しいプリンの蓋を剥がすと、スプーンで掬って俺の方に近づけてくる。


「……あなたの分は私が食べさせてあげるわ。光栄に思いなさい」


 佐伯は相変わらず俺のことを揶揄ってくる。


「いや、俺は自分で食べ」

「ダメ。自分で食べるならこちらのプリンも私が平らげるわ」

「こ……この……」


 結局俺は、否応なくプリンを食べさせられることに……。

 佐伯はプラスチックのスプーンでプリンを掬って俺に食べさせる。

 妹が白い目でこちらを見ていたが、俺は言われるがまま、佐伯の「あーん」を受け入れた。


「大狼くん……赤ちゃんみたいね」


 屈辱の二文字が脳内で増殖して、頭の中がパンパンになった。

 俺の人生で今が一番屈辱的だ。


「うわ、同い年の姉さんにおぎゃるとか……大狼、●●●●●●から、●んで」

「この場には俺の味方0か」

「大狼、思う存分おぎゃったから、次は私にミニモン教える」

「……はいはい」


 妹は俺の左腕を引いて、テレビの前に来るように促す。

 妹のおかげで佐伯のあーんを回避できたと思ったのだが、佐伯は俺の右腕を掴んで引き留めた。


「待ちなさい。まだプリンは残っているわ」

「姉さんはさっきお遣いにも行った。今度は私が大狼と遊ぶ」


 またしてもおもちゃの取り合いを始める佐伯姉妹。


「このまま不毛な言い合いを続けるのは得策ではないわ。公平にじゃんけんで決めましょう。負けた方は10分だけ自室に戻るというのはどうかしら?」

「構わない。姉さんはどうせ最初グーを出す」

「ちょっと美代。心理戦を入れるのは卑怯よ」


 珍しく佐伯が動揺している……?

 って、なに真面目に聞き入れてんだ俺。

 どうでもいいだろこのじゃんけん。


「「じゃーんけーん」」


 ✳︎✳︎


「大狼……ここで交代読みするなら、どのミニモンがいいと思う?」


 勝負じゃんけんの結果、妹が俺と遊ぶことになり、佐伯は舌打ちをしながらプリンを両手に持って自室に10分戻ることになった。


「タイプ相性的には、こいつがいいんじゃないか? 交代しても有利対面を崩さずに戦えるし」

「なるほど……」


 妹は真剣な眼差しでゲームの方を見つめていた。

 そして、ゲームに勝つと「ありがとう」と素直にお礼を言ってくる。

 初めて会った時は、とんでもない奴だと思っていたが、そこそこ親しくなると結構普通に可愛い女子高生って感じだな。(口は変わらず悪いが)


「お前ってさ、佐伯と違って人懐っこいよな」

「……誰にでもこんなじゃない。大狼は、喋りやすいから特別。美人の私と喋れるんだから喜べ陰キャ」

「陰キャ陰キャって……」

「実際そう」

「……まあ、反論はできん」


 そう答えると、妹は珍しくニコッと笑う。


「大狼と姉さんは、どうやって知り合った? 陰キャ同士だから?」


 佐伯って妹から陰キャだと思われてんのか。


「俺と佐伯が知り合ったのは……俺の方からlimeして、佐伯から返信きて、そのまま成り行きで……っていう感じで」

「自分からlime……? 大狼、陽キャみたいなことする」

「いや、直接話せない時点で陰キャだろ」


 妹は「確かに」と言いながらケラケラ笑った。


「……でも、姉さんからlimeの返信来るのは凄いこと」

「妹から見てもそうなのか?」

「だって妹の私にも【り】か【りょ】しか送ってこない。デリバリーで何頼むか聞いた時だけ、欲しい商品の写真送ってくる」


 あいつ……血を分けた姉妹だから大切とか言ってたくせに妹にも適当なlimeしてんのかよ。


「でも私は別に気にしない。姉さんはリアルで優しい」

「佐伯が優しい? お前の前だとそうなのか?」

「うん。いつも一緒にお風呂入ってくれるし、怖い映画観たら一緒に寝てくれる。おねだりしたらなんでも買ってくれるし、髪も切ってくれる」


 佐伯妹は自分の短い髪をフルフル揺らしながら言う。


「まあ姉さん不器用だから、いつもミスる」


 佐伯の髪はストレートで長いのに、なぜ妹はショートヘアなのかと思っていたが……佐伯が原因だったのか。


「姉さんに切ってもらうの好きだから、ミスっても怒らない」

「妹は……姉想いなんだな」

「褒めるなら、撫でて」


 妹はそう言いながら俺の手を自分の頭の上に載せた。


「姉さんはいつも褒める時撫でてくれる。大狼もこれから、撫でないとダメ」

「は、はあ?」

「あと、妹じゃなくて、美代って呼べばいい。私も古徳って呼んでやる」


 佐伯と違って、距離の詰め方が異常だな……。


「古徳、次のバトル始まる。また教えて?」

「お……おう」


—————————

【あとがき】

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