35話 佐伯雪音の爆発


 たこ焼きパーティーと無駄すぎる余興が終わると、佐伯姉妹もそこそこお腹が満たされたらしく、満足そうにハンカチで口元を拭っていた。


「大狼……私、デザート食べたい」

「デザート?」

「駅前のとろふわプリンを所望する……姉さんと一緒に買ってきて」

「また急に面倒なことを……ってか、パシるなら俺一人でもいいだろ。なんで佐伯まで」

「姉さんと行ってきて」

「何でだ」

「大狼……そのまま帰りそうだから」


 信用0かよ……されたいとも思ってないが。


「妹が食べたいんだろ? ならお前と一緒じゃダメなのか?」

「あなた……私と買い物へ行くのがそんなに嫌なの?」

「嫌なんて言ってねえだろ」

「……なら、黙って一緒にくればいいじゃない」


 佐伯は買い物袋を手に取ると、先に玄関へ歩いて行ってしまった。


「大狼……余計な一言多い」

「さっきからお前が佐伯と俺をくっつけようと画策してんのはバレてるからな。言っとくけど俺たちはそういう関係じゃない」

「……陰キャのくせに贅沢こいてんじゃねえ。さっさと行け。●●●●●すぞ」

「こっわ」


 もはや耳打ちヤンキーどころかただの口悪ヤンキーにクラスチェンジした妹を置いて、俺は佐伯の後を追った。


「待てよ佐伯」


 部屋を出て、エレベーターに向かう佐伯に声をかける。


「あら、私なんかより可愛げのある美代と一緒に買い出しに行きたかった大狼くんじゃない」

「なんだよその言い回し」

「……美代の胸ばかり見て、ほんと気持ち悪い」

「みっ、見てねーよ!」

「…………」


 どうやらご機嫌斜めどころか、かなり悪いご様子だ。

 

「さっきから、妹、妹って……お前、妹と仲悪いのか?」

「それは無いわ。血を分けた姉妹だし、昔からいつも一緒だもの」

「じゃあどうして」

「……あ、あなたが、美代と仲良くしてるのを見ると、こう……腹が立つの。あなたは、私のお友達なのに……」


 まるで、自分のおもちゃを妹に取られ、拗ねてる子どものようだった。

 そのおもちゃが俺なのも解せないが……。

 きっと佐伯は、親から「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」と言われて育ったのだろう……と余計なことまで想像してしまう。


「まあ、妹とばっか喋ってた気もするから、それは謝るが」

「そうよ。美代と知り合ってまだ5時間のくせに私なんかより仲良さそうにしてるし、ミニモンもそうだし、たこ焼きの生地を作った時だって3歩くらい美代の方に寄りながら教えてたし、完成した時もどう見ても私の方が綺麗に出来てるのに美代ばっかり褒めるし、たこ焼きも先に美代側が焼けるように生地を流し込んでたし、たこ焼きが出来た時だって真っ先に目線が美代の方を向いていたし、食べる私たちを見る目も美代の方ばっか見ていたような気がするし、たこ焼きのタコの大きさも美代側にあるたこ焼きの方が大きいタコだったし、私と一緒にたこ焼きを作る時より美代と作っている時の方が楽しそうだったし、ソースも私たちの方に渡す時は真っ先に美代の方に手渡してたし、あなたはずっと美代美代」

「どうどう、落ち着け。何が言いたいのかさっぱりだ。頭の中が怪文書みたいになる」

「はぁ……はぁ……」

「思いっきり息切れしてんじゃねえか!」


 佐伯の不平不満マシンガンの弾は無限なのかもしれないな。


「わ、私は…………あなたに少しでも冷たくされるのが嫌なの。お友達なのだから、それくらい分かりなさい」

「お……おう。それは、すまなかった」


 色々と反論したかったが、これ以上なにか言ったら、またあのマシンガンが火を吹きそうなので止めておいた。


 佐伯は意外と……寂しがり屋なのかもしれない。

 いつもは周りに無関心なくせに……可愛い所もあるんだな。

 まあ妹の方が佐伯よりも喋りやすかったから、自然と妹の方を向いていたのは認める。

 だから佐伯の言いたいことも分からなくはないが……にしても気にしすぎだろ。(3歩寄ってるって何だマジで)


「正直に答えて欲しいのだけど、あなたは私と美代、どっちの方が仲が良いと思っているの?」

「そりゃ……お前だろ。さっきの言葉を借りれば、妹は出会って5時間だし」

「……それなら、常に私へ話しかけなさい。変に恥ずかしがらないでちょうだい」


 これっぽっちも恥ずかしがってないんだが。


 その後も度々こぼれる佐伯の愚痴マシンガンを喰らいながら俺たちは駅前のプリンとやらを買いに行くのだった。



—————————

【あとがき】

重可愛おもかわいいな……おい。


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