31話 佐伯姉妹は想像を遥かに超えたポンコツ


 佐伯のマンションに着くと、高級ホテルのように綺麗なエントランスから、エレベーターに乗り、佐伯たちの部屋の階まで上がる。


「この部屋よ」

「お、おじゃま、します……」


 部屋の前まで来ると、佐伯姉妹の後ろをついていくようにして、部屋に上がった。


「うぉおお……」


 広々としたリビング。

 シックな色使いの家具が並び、大画面のテレビの前には黒い革のソファーが置かれ、食卓の隣には、水垢一つない清潔感のある純白のオープンキッチンまである。


「キッチンが綺麗すぎるだろ。佐伯は料理しないだろうし……妹が掃除したのか?」

「ちょっと大狼くん、そういう偏見に満ちた発言はよく無いと思うわ」

「偏見じゃなくて事実だろ。肉を焼くことしか考えてなかったくせに」

「それなら美代もそうじゃない」


 佐伯は妹の方を指差して言う。


「妹は…………うん、やっぱ妹もダメそうだな」

「ウザっ。陰キャのお前に言われたくない」

「残念だったわね美代」

「姉さんも同類って言われてるの忘れた?」


 また姉妹喧嘩が始まりそうなので、俺は咄嗟に話題を、この綺麗なキッチンの方に戻す。


「お、お前ら二人が、このキッチンをノータッチって事は、料理してないから綺麗って事なのか?」

「ええ。おそらく母が海外へ行く前に綺麗にしてくれたのだと思うわ」


 娘たちが二人で使うと思って、こんな新品みたいにピカピカにしていったのだろう……。

 それなのに、こいつらと来たら。


「お前ら料理もせずに何食ってんだよ? 冷食とかか?」

「フードデリバリー」

「デリバリーって、そんなんばっか食ってたら身体に悪いだろ」


「「??」」


 佐伯姉妹はお互い目配せをしながら「何言ってんだこいつ」とでも言いたげな反応を見せる。


「ホント、よく太らないよなお前たち」

「……姉さんは、少し太った」

「太ってないわ」

「……この前お風呂上がりに体重計で絶句してたもん」

「……そ、そう言う美代こそ、最近また胸が大きくなったんじゃないかしら? 私、大きすぎるのは良くないと思うのだけど?」

「うるさい……つぎおっぱいのこと言ったらいくら姉さんでも容赦しねえから」

「こっちこそ……」


 佐伯姉妹が睨み合う傍ら、俺は呆れながら手を洗って、買い物袋から食材を取り出す。

 とりあえず、色々準備する必要があるから、生ものは一旦冷蔵庫入れておくか。


「……大狼、まず何やればいい?」


 睨み合いが終わったのか、妹が俺に声をかけてきた。


「とりあえず手とか洗ってエプロンとかして来い。佐伯も」

「……ふん、言われなくても分かってるわ」


 さっきまで喧嘩してたやつがよく言えるな。


 妹が佐伯と俺の分までエプロンを持ってきてくれて、俺たちはオープンキッチンの前でとりあえずエプロンを着ける。


「ってかさ、この流しがこんなに綺麗のままだったら、お前らの母さんが帰ってきた時、デリバリーばっか食ってるのバレて怒られるんじゃないか?」


「「…………」」


 佐伯たちのエプロンを着ける手が止まる。



「美代、後で汚くしましょうか」

「ぎょい」


 やっぱただのダメ姉妹だな。


「大狼……はやくたこ焼き食べたい」

「分かったから。じゃあまずはたこ焼き粉で生地を——」


 その時、突然俺のスマホに着信が入る。


「あ、電話……って、玉里か」

「……こっちはいいから電話してきていいわよ」

「お、おう。すまん」


 俺はスマホを片手に、リビングを後にして玄関先へ向かう。


「もしもし? 玉里?」

『へーい古徳くん、アーユーファイーん?』


 スマホから玉里の陽気な声が聞こえる。


『ワイハ最高ー! 古徳くんも来ればよかったのにー!』

「どうして他人の俺が道藤家の家族旅行に行かないといけないんだよ」

『お父さんも古徳くんはもう家族みたいなもんだからいいよって言ってたよ? それに、あたしとの二人部屋も許すって……きゃっ♡』

「やかましい。もう切るぞ」

『まあ冗談はさておき。ワイハのお土産また今度渡しに行くねー』


 ぷつり、と電話が切れる。

 ったく、玉里のやつハワイでテンション上がってるからってこんなクソみたいな電話寄越しやがって……。


 俺がため息を吐きながらリビングへ戻ると、キッチンの前ではやる気満々で、エプロンと三角巾を着けた佐伯姉妹が、ボウルと木べらを持って何かをしている。


「おーおー、やってる……な゛⁈」


 俺は目の前の光景に愕然とする。

 こ、こここ、こいつら……。


「なかなか、生地にならないわね」

「……姉さん、これ不良品なのでは?」


 佐伯姉妹は、ボウルの中にたこ焼き粉……"だけ"を入れて木べらで混ぜている。


「あら大狼くん……戻ったのね? こっちは順調よ」

「どこがだよ! 粉だけで生地ができるわけねーだろっ。ね●ね●ね●ねですら水は入れるわ!」


「「……………」」


 佐伯姉妹を互いに目を見合わせた後、俺の方をじっと見つめてくる。


「な、なんだその反抗的な目は」

「……これはボケよ。粉だけで生地が出来上がるなんて思うわけないじゃない」

「そうだよ大狼……姉さんの言う通りだよ」


 佐伯姉妹はキメ顔でそう言った。(もう帰りたい)




——————

【あとがき】

佐伯ぃ……!?



オーバーラップWEB小説大賞銀賞受賞作の

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イラストはなんと!人気イラストレーターの千種みのり先生に担当して頂ける事になりました!

星野星野デビュー作になりますので、何卒よろしくお願い致します!

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