29話 美人姉妹とお買い物♡(地獄)


 俺は佐伯姉妹に振り回されながら、佐伯のマンションの近くにあるスーパーに来た。


 そこそこ広めのスーパーで、青果コーナーの果物から甘い香りがプンプンしている。

 俺はカゴを持って、佐伯姉妹の後ろをついて行く。


「大狼くんは苦手なものとかあるかしら?」

「苦手……? そうだな、納豆とか」


 そう答えると、佐伯は「ふっ」と鼻で笑った。


「コーヒーは飲めても納豆が食べれないなんて……大狼くんったら子どもね」


 イラッときたが、これは佐伯の挑発なんだと思うと冷静になれた。

 挑発に乗ってキレたら負けだ、落ち着け俺……。


「でもそう言う姉さんは、コーヒーも飲めないし、ピーマンも食べれないし、納豆も嫌いじゃん」

「ちょっ美代」


 さっきまで挑発的だった佐伯は、急に焦り出して、妹の腕を掴んで揺らす。

 今日は佐伯の事をよく知ってる妹がいるから助かるな。

 俺がホッとしていると、妹が「耳を貸せ」とジェスチャーで伝えてくる。


 耳打ちヤンキーのことだから、どうせ暴言吐かれるだけだろう。

 俺は仕方なく耳を傾ける。


「あと……姉さん男性経験0だから」


 妹は満足げに口角をニヤッと上げて、佐伯の隣に戻っていく。


 こいつ、何か勘違いしてないか?


 それにここまでの美代の行動を考えてみると不自然な点がある。

 まずはあの電話。

 ホームパーティをするなら佐伯から電話してくれればいいのに、なぜか妹の方から電話が来たし、今のだってどう考えても要らない情報過ぎる。


 美代は、俺と佐伯が恋愛関係にあると思ってるのだろうか。

 佐伯と俺が……付き合う?


「いやいや絶対ない」

「大狼くん? どうかしたの?」

「なんでもねえ」


 佐伯は「そう?」と言って、牛肉を5、6パックくらい一気にカゴに入れた。


 でもまあ、この1ヶ月で急に佐伯と俺は話すようになったわけだし、周りからはそうやって見えたりするものなのだろうか。


 けど、恋愛とか昔から興味ないっつうか、そもそも佐伯は俺みたいな陰キャなんかよりも相応しい相手が———って、ちょっと待て。


「5パック⁈」


 考えに耽っていて、ツッコむのを忘れていたが俺が持ってるカゴの中には、豚と牛肉のパックがパンパンに詰められていた。


「おい佐伯! なんだよこれ!」

「……お肉だけれど。大狼くん大丈夫?」

「大丈夫? はこっちのセリフだ! どんだけ肉買うんだよ」

「大狼……佐伯家ではこれが普通。姉さんも私もお肉めっちゃ食う」


 そういえば、この前行った打ち上げの焼肉屋でもめっちゃ食ってたもんな……。


「それで? この山のような肉使って何の料理をするんだ?」

「焼肉よ」


 ……は?


「肉を焼いて食べる。以上よ」

「お、お前らまさか」

「うん……姉さんも私も料理できない。だから肉を焼いて食う。以上」

「はあ……」


 もう完全に美人なのが取り柄なだけの姉妹だった。


「お前たちは肉を焼いて食うだけの【ホームパーティ(笑)】にわざわざ俺を呼んだってのか?」


 佐伯姉妹は当たり前だと言わんばかりに、同時に深く頷いた。

 俺が皮肉ってることにすら、気づいてないらしい。


「帰国子女とはいえ、お前らも女子高生なんだから、せめてこう、タコパとかにしろよ」


「「たこぱ?」」


「たこ焼きパーティー、知らないのか?」


 佐伯と美代は顔を見合わせて首を傾げる。

 ダメだこりゃ。


「たこ焼きの中に色々、好きな具材とか入れたりするんだよ」

「好きな具材……面白そうね。美代、そのタコパとやらをしましょう」

「承知」

「言っとくが、肉ばっかはやめろよ」


 佐伯と美代はハムとソーセージに伸ばした手を止める。


「お前ら肉好きすぎだろ!」


 こうして、タコパの準備が始まった。


―――――――――――――

【あとがき】

月間2位に上がってました。ありがとぅ!


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