27話 待ち合わせ場所に来たのは……?
夏休みに入った。
陽キャどもは毎日狂乱の宴に勤しんでいるのかもしれないが、インドアぼっちの俺は家でゲームをしたり、飽きたら近くの図書館に行って本を読んだりしていた。
そして今日もクーラーの効いた部屋でゲームモニターの前に座る。
「孤独、最高……」
一学期の最後は、佐伯に絡まれたり、文化祭というイベントによって俺の孤独な学校生活が脅かされていたが、こうして夏休みに入れば全てリセットされる。
文化祭による周りの好感度や期待も、二学期になれば落ちるに決まってるし、それは佐伯に関しても同じはずだ。
「はず……なんだけど、な」
夏休みに入ってからパタンと途絶えた、俺と佐伯のlime。
佐伯の家は裕福だから、きっと海外旅行にでも行っているのだろう。
そう思って俺からlimeする事は全く無かったが、何の音沙汰も無いのは違和感があった。
まあ結局俺は、佐伯の話し相手に過ぎないし、家族旅行中なら話し相手には困らないだろう。
「……って、どうして夏休みなのに佐伯の事なんか考えなきゃいけないんだよっ」
俺はすぐに佐伯を頭の中から放り出して、目の前のゲームに集中する。
俺は一人でいい。
昔から俺は【友達】という、いつ崩れるかも分からない薄っぺらい関係が、空虚なものにしか思えない。
一人でいれば誰にも攻撃されないし、他人から恩着せがましく守られる事もないわけで。
玉里みたいな親同士が仲良くて、無理やりくっつけられてきた幼馴染はいたが、それ以外に特別親しい人間はいなかった。
ただ、こんな捻くれ者の俺でも、誰かに逆らうような事は決してしない。
今回の文化祭の件もそうだが、俺は極力、敵を作りたくないから、これまでも上手く立ち回って生きてきた。
敵を作らず仲間も作らない。ずっとそのポリシーを大事にしている。
しかし、俺は佐伯と繋がりを持ってしまった。
なぜあの時、俺はあんなお節介なlimeなんて送ってしまったのか……。
後悔の念に駆られる。
まさか返信が来るとは思ってなかったから、俺も変に油断してしまったのかもしれない。
あのlimeによって、俺は都合のいい"おしゃべりフレンド"になってしまったわけで。
「はあ……結局、佐伯の事を考えちまう」
目の前のゲームでモンスターの厳選作業しながら、俺は【佐伯雪音】というワードを何度もミュートしようとしたが、何を考えても最終的に佐伯を堂々巡りしてしまう。
その度にため息を吐いていると、突然スマホに着信が入った。
「lime電話? ってこれ、佐伯からだ……」
俺は恐る恐るスマホを手に取り、電話に出る。
「……大狼だが』
『…………』
「佐伯?」
『…………』
返事が無いので、何かの手違いだったのかと思い、電話を切ろうとしたその時。
『あ……明日、10時、駅前集合』
「この声…………耳打ちヤンキーか?」
『私はヤンキーじゃない』
声の主は、佐伯の妹だった。
前会った時、初対面なのに「あんま変な目で見んな。しばくぞ」って言われたような。
姉もなかなかの曲者だから妹がこんなのでも、意外では無かったが……なんでまた、妹から俺に電話が?
「どうして妹のお前が姉の電話使ってんだよ」
『……それより、明日10時に駅前集合』
「は? 勝手に決めんなって」
『分かった?』
ごり押ししてくる佐伯妹。
「い、行かないと言ったら?」
『しばく』
「やっぱヤンキーじゃねえか!」
『……チッ』
妹は最後に舌打ちして、電話を切った。
仲間を作らず、敵も作らないのが俺のポリシー。
だが今回ばかりは、佐伯妹を敵に回してもいいから、行きたくねぇ……。
——と思いつつも、この炎天下でバックれて、佐伯妹を待たせるというのは流石に出来ないから、俺は家を出る。
真夏の太陽の下を歩き、やっとの思いで、駅の日陰に逃げ込んだ。
「あちぃ……何が面白くてこんな炎天下に外へ出ないといけねぇんだよ」
俺は妹への不満を漏らしながら、駅前の屋根の下で彼女を待った。
そして待つ事30分。
俺の目の前に現れたのは佐伯の妹と——。
「「…………」」
「どうして妹だけじゃなくて、佐伯もいるんだよ」
「うるさいわね。暇だったから来てあげたの」
そう、妹だけじゃない。
"佐伯姉妹で"待ち合わせ場所に来たのだった。
―――――――――――――
【あとがき】
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