25話 突然のドキドキ


「古徳くん! アイス入りのシュークリームをこうやって焼くと美味しいよー」


 焼肉食べ放題が始まってから数十分。ついに玉里が遊び始めた。

 100分制だから、時間が余るのも理解できるが……。


 俺はそれを考慮してタレとかの味変を繰り返し、飽きが来ないように食べているんだが、それにしても前の2人——。


「佐伯さん、次はどの部位がいい?」

「……ホルモンで」


 佐伯と町張は平然とした顔で、さっきからタブレットを見ながら次に頼むモノを決めていた。

 俺も玉里みたいに、そろそろデザートへ行こうかという頃合いなのだが、町張と佐伯はまだ肉の話をしている。


 玉里が昔から小食だったから、女子ってみんなそんなもんかと勝手に思っていたのだが……この2人、めっちゃ食うな。

 めっちゃ食うのに、このスタイルを維持してるのが普通に凄い。

 それに比べて玉里は……背も伸びないし、中一の頃から体型変わってない。


「ん? どしたの古徳くん? もしかしてこのプリンもあーんしてほしいの? もぉー、今日の古徳くんは甘えん坊さんだなー」

「お前もさ、もう少し食べて、あの二人みたいになれよ」

「はぁ? 何それー!」


 怒る玉里を無視して、目の前の二人を再び見る。

 それにしても、あの佐伯が段々と俺以外の人間と打ち解けていってるのは新鮮な感じがする。

 無口で無愛想だった孤高の美女も、結局は友達が欲しかったのかもな。


 周りから女神のように崇められて、それに嫌気が差していたのかもしれないが、limeの一件から俺と話すようになり、買い出しの時から町張と話すようにもなり、いつの間にか玉里とも話してる。

 それに最近の佐伯は、少しだけ表情が柔らかくなった気もする。


 だが、変わったのは佐伯だけじゃないのかもしれない。

 前までこの手の空間にいたら居心地が悪くて仕方なかった俺だが、なぜか今は、そこまで悪くないのだ。


 玉里はあざとくてウザいし、町張はしっかりし過ぎでウザいし、佐伯は周りに冷たい割に俺の前だと理解不能な行動が多すぎて、若干困惑する。


 でも、そんな奴らが集まっているこの空間にどこか安心してしまう自分がいた。


「ねえねえ古徳くん。せっかく文化祭の打ち上げなんだから、実行委員として一言感謝とか言ったら?」

「はあ? 何を今更」

「はーいみんなちゅうもーく! 古徳くんから一言いただきまーす」


 玉里に無理矢理立たされ、急に俺が喋る空気になる。

 こういうの、大の苦手なんだが。


「まあなんつーか……玉里にはクラスの奴らとの間を取り持って貰ったし、町張には全体の話し合いとかでお世話になったし、佐伯は……あの期間、ずっと隣にいてくれて、頼もしかった。だから、その、色々とありがとな」


 俺は小っ恥ずかしい感情をグッと押し殺して素直に感謝の気持ちを述べた……んだが。


「ねーねー佐伯ちゃんっ、追加で何頼む?」

「卵クッパを。町張さん、このお肉いただくわ」

「おっけー」


 こいつら全然聞いてねぇんだが。


「お前ら絶対わざとやってるだろっ」


 ✳︎✳︎


 食べ放題の時間が終わり、焼肉屋から出ると、外はすっかり夕日が落ちて薄暗くなっていた。


「町張ちゃんとあたしはバスだけど、佐伯ちゃんは?」

「歩きよ」

「うーん。もう暗いし、古徳くん送ってあげてねー」

「なぜそうなる」

「大狼、よろしくね」


 町張にまで頼まれるとな……。


「わ……分かった。行くぞ佐伯」

「ええ」


 玉里たちと焼肉屋の前で別れ、俺と佐伯は夜道を歩き出した。


「今日はやけに楽しそうだったな」

「……そうかしら?」

「楽しくなかったのか?」

「……80点ってとこね」

「相変わらず高いなお前の採点」


 佐伯と二人になると、さっきとは違った空気感があって、4人でいる時は伝わって来なかった佐伯の気持ちが、ストレートに向けられているような気がする。


 今の佐伯はどこか満足そうだった。


 しばらく歩いていたら、急に佐伯の足が止まった。


「大狼くん……今日は満月ね」


 佐伯は夜空を見上げると、月の方を指差す。

 佐伯の足が止まるのと同時に、俺の足も止まる。


「満、月……? ほんとだ」

「綺麗だと思わない?」


 佐伯は横目で、こちらを見ながら訊ねてくる。


「そりゃ満月は綺麗だろ」

「……っ」

「ん?」


 佐伯は薄ら笑いを浮かべながら、俺の前を歩き出した。


「ベタね……」

「何がだよ」

「何でもない……ここまで送ってくれてありがとう。信号を渡れば直ぐだから、もう大丈夫」

「そ、そっか。なら俺はもう」


 信号機の前で、俺が自分の家の方へ帰ろうとしたその時。

 佐伯が俺の右手を優しく握り、引っ張る。


「佐伯?」


「私も……あなたが隣にいて、頼もしかったから」


「え?」


 信号が青になり、掴まれていたその手がそっと離れて行った。


「……じゃあ、また来週」


 それだけ言い残し、佐伯は信号を渡った。


 頼もしかったって……あの時の俺の話、聞いてたのか。

 いつもは揶揄ったりして俺を困らせるのが趣味なくせに、急に素直に感謝したり、友達になりたいとか言い出したり……。


「なんなんだよ……佐伯っ」


 俺は何とも言えないそのモヤモヤに苛立ちながら、家路に着くのだった。



——文化祭編が終わったのでおまけ——


【佐伯雪音の日記】


6月29日。


今日は大狼くんと焼肉屋で文化祭の打ち上げをした。

大狼くんは言うまでもなくツンデレなので、私のスリーサイズに興味の無いフリをしていたわ。(本当は喉から手が出るほど知りたいくせに……)

あと、私の事を「頼もしかった」と言っていたけど、それって「一生、俺の隣に居ろよ」とも解釈できるしほぼ告白では無いかしら? もう、素直じゃないんだから。(やれやれだわ)

そういえば、もうすぐ夏休みね。

しばらく会えないと彼が可哀想だから、私の方から誘ってあげようかしら——。



―――――――――――――

【あとがき】

佐伯ぃぃぃぃい。


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