21話 佐伯さんは感想が聞きたい


 ——翌日。

 あの写真に(色んな意味で)動揺した俺は寝不足に陥ってしまい、眠い目をしながら高校に登校すると、原因である”ヤツ"が、バスから降りる俺を待ち構えていた。


「……おはよう、大狼くん」


 俺の顔を見るなり薄ら笑いを浮かべる佐伯。

 まるで俺の心中を見透かしているかのようなこの表情。

 まさか……全て計画の上で、俺にあんな写真を。


「あら、朝からおかしな顔をしてるわね。何かあったのかしら?」


 と、シラを切る佐伯。


「昨日の写真……あれはなんだ?」

「文化祭を頑張ったご褒美よ。有り難く思って」


 またそうやって偉そうに……。


「それとも……要らなかったのかしら?」

「要る要らないとかの問題じゃなくて、あんな写真送ってくんなよ。カフェの時にデジタルタトゥーがどうとか言ってたのはお前じゃないか」

「あなたにしか送ってないのだから、デジタルタトゥーでも何でもないわ」


 あの時とは逆の立場で同じことを言い返される。


「も、もしも俺がばら撒いたら?」

「あなたはそんな事しないもの」


 佐伯はそう言って歩き出す。

 どうして佐伯から信頼されてんだ俺……。

 ここは一回お灸を据えとかないといけないな。


「俺は、やる時はやるぞっ」

「……あなたはしないわ」

「だからそうやって信頼するのは辞め」

「信頼ではなく確信よ。あなたがと同じ下衆な人間なら……そもそもお友達にはならないもの」

「お友達……」

「それにあなたになら……見られても恥ずかしくないから」


 な……なんだよそれ。

 俺になら見られても恥ずかしくない? 男として認識していないからか?

 とことん俺の事を見下してるな……。


「と、ところで、大狼くん。昨日の返信はやけに遅かったわね?」

「返信? あぁそれは」

「もしかして——」

「?」


 佐伯は人差し指で頬を掻きながら、目を泳がせる。


「わ、私の写真で……いかがわしい行為をしてたから?」

「は?」

「最低ね。あれだけ私に返信しろだの、説教してたくせに、自分は自分の性欲を優先してただなんて」

「なんか一人でブツブツ言ってるとこ悪いが、俺はただ返信の内容を考えていただけで」

「口では、何とでも言えるわね」


 よく分からんが佐伯は俺の話に聞く耳を持たずにずっと一人で会話していた。

 佐伯のやつ、文化祭の時からやけにお喋りになったな。(面倒くささがが増したような気もするが)


「なら、写真の感想を言いなさい、今すぐ」

「はあ?」

「適当な事言ったら、もう送ってあげないから」

「そもそも頼んでねえっつの」

「……感想を言わないなら、また送るわよ」

「逆に予告して来やがった」


 か、感想……。


「俺みたいな普通の人間がお前みたいな美人にケチつけられねぇけど……普通に可愛かったと思うぞ」

「……っ」

「な、なんだよ」

「……きゅ、90点ってとこね」

「意外と高いな」


 全然嬉しくないけど。


 ✳︎✳︎


 自撮り作戦。

 これはあのメイド服を見た瞬間に思いついた作戦。

 いくらあの大狼くんとはいえ、男の性には逆らえないでしょうし、あんなのを見たら私の事を意識しない訳がない。

 そう、例えば——。


『お、俺、あの写真見てたら佐伯のことしか考えられなくなって。す、好きになったっつうか……』

『……仕方ないわね。あなたがそこまで言うならお友達から少しだけランクアップしてあげてもいいわ?』


 ……って感じになる筈だったのに。


「お前って、意外とそういう事するんだな。玉里と同類だぞ」


 せっかく私が恥ずかしいのを我慢して、あんな写真を送ってあげたというのに……この男、ムカつく——筈、なのに。


「ち、ちなみに……道藤さんの自撮りは、どうだったのかしら」

「玉里の? あいつは、迷惑にも10枚くらいあざとい自撮りを押し付けて来て……」


 じゅ、10枚⁈

 私は帰ってから2時間もポーズを熟考して、やっとそれっぽい1枚が撮れたのに……。


 侮れない、道藤玉里……。



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