19話 佐伯の笑みと嫌な予感
「これ着てください! お願いしますっ! 佐伯さん!」
突然私を呼び止めた男子は、両手に持ったメイド服(らしき物)を私に差し出してきた。
「原田くん、これなに?」
道藤さんは彼からそれを奪い取って広げた。
彼が差し出した衣装は、際どいところに露出の多いメイド服であり、スカートの丈も短く、胸元にはハートの穴があって、着たら間違いなく谷間が見えるようになっていた。
本当、気持ち悪い……。
これだから大狼くん以外の男子は。
「ちょっと原田くん! これダメだよ!」
「うるせーよ道藤。お前だって、あざといメイド服着てるだろー?」
「それは……さ、佐伯ちゃん、こんなの服着ちゃだめだよ! えっちだし!」
待って……。
その時、私の脳内に"妙案"の二文字が浮かび上がり、私は道藤さんが持っているそれを手に取った。
これは使えるわね。
「き、着てくれるんすか⁈」
「……これ、没収よ」
「え」
✳︎✳︎
文化祭の熱も段々と落ち着き、人も少なくなって来た。
それにしても佐伯のやつ、遅いな……。
まさか何かトラブルがあったのか?
いや……もしあったらそれこそ早く帰って来るだろう。
「ふぁ〜ぁ。なんか、眠くなって来たな……」
俺が踊り場のパイプ椅子に座りながらウトウトしていると——。
「大狼——」
階段の上から俺を呼ぶ声がして、昼寝が妨げられる。
「……町張?」
「あ、もしかして忙しかった?」
「見ての通り暇だが」
水色と白を基調としたメイド服を着ている町張。
いつものポニーテールを下ろして、ストレートにしており、頭の上には白のプリムを乗せていた。
いつもの委員長のオーラが全く感じられないくらいに浮ついた格好だ。
どうせ、クラスの連中にでも着させられたのだろう。
「大狼は偉いね。ほかの階の実行委員はみんな遊んでたよ?」
「あ、遊んでた? ……マジかよ」
「大狼って、変な所で真面目だなぁ」
「うっせ。そんな事より、俺に何か用があったからここに来たんじゃないのか?」
「あ、そうそう!」
町張は思い出したかのように、本題へ入った。
「想像以上にお客さんが多くて紙皿とかも使って対応してたんだけど、もう少なくなっちゃったの。今から買い出し班が補充しに行くみたいなんだけど、予算って大丈夫そうかな?」
「予算か……俺の知らない所で衣装に結構使ったみたいだから、これくらいしか無いが」
俺はスマホの文化祭の費用がまとめられたメモを町張に差し出す。
「うん……これくらいならギリギリ大丈夫そうかな」
「そうか」
「ありがとう大狼! みんなに相談してみるっ」
町張はまた階段の方に向かって行ったが、急に足を止めてこちらを振り返った。
「それと、さ」
メイド服のスカートがクルッとした反動で膨らむ。
「どう、かな?」
「どう? とは」
「わたしのメイド服、どうかなって」
「そんな事……俺に聞くなよ」
俺は恥ずかしくなってつい目を逸らす。
「大狼ってさ、良くも悪くも正直だから、率直な感想を聞きたいと思って」
「良くも悪くもって」
「いいからっ、感想聞かせて?」
「……い、良いんじゃねえか? 普段のお堅いイメージも、あんまり無くて、似合ってるし」
「ふふっ、そっか」
町張はクスッと笑いながら「やっぱ大狼は正直だね」と言うと階段を上る。
「ありがとう大狼っ」
町張は足早に階段を駆け上がって行った。
率直な感想……か。
俺がボーッと立ち尽くしていると、入れ替わるように佐伯が戻ってくる。
「今戻ったわ。階段で町張さんとすれ違ったけど、あなたたち何を話していたのかしら?」
「クラスの紙皿が足りないんだと。ってか、クラスに問題が起きて無いか見て来てくれって頼んだよな? さっそく問題起きてんのに何で言いに来たのがお前じゃなくて町張なんだよ」
俺が怒り気味に言うと、佐伯はツーンとそっぽを向いた。
こ、こいつ……。
「どこでサボってたんだ?」
「……ふっ」
「何がおかしい!」
「まあ、楽しみにしてるといいわ」
佐伯は不敵な笑みを溢すのだった。
何かいい事でもあったのか?
―――――――――――――
【あとがき】
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