17話 文化祭03〜二人の新たな関係〜


 佐伯に呼び止められ、俺はパイプ椅子に座り直す。


 佐伯が俺に話したい事って……?


 いつも通り、上から目線で文句言われるのだろうか。

 佐伯の事だし、その可能性はあるな。

 俺はそんな事を思いながら、佐伯の方を向く。


「それで、話したい事ってなんだ?」

「…………」


 急に黙る佐伯。

 いつもと違って制服のスカートをキュッと握り、肩も上がっていた。


「…………」

「おいおい、お前が話したい事があるって言ったのに黙ってどうすんだよ」

「……わ、私には私のタイミングがあるのだから、文句を言うのはやめなさい」


 佐伯は怒り気味に言って、一呼吸置いた。

 見たところ、珍しく緊張? しており、やけに落ち着かない様子だった。


「最初こそ、あなたのことを不思議に思っていたけど……この1ヶ月、あなたと話したりして、それなりに楽しいと思ったの」


 俺と会話するのが楽しい……?

 え、もしかして告白でも始まるのか?


「あなたって、他の人みたいに私をおだてたりしないし、私を利用しようとする気配も無い。いつもフラットというか……新鮮で」

「なんだ? もっとお前を特別扱いしろって事か?」

「違うわ。話の腰を折らないで」

「す、すまん」


 俺が謝罪すると、佐伯はため息を吐いて、話を戻す。


「孤独を望むあなたに、こんな事を頼むのはおかしいかもしれないけど」


 佐伯はその綺麗な瞳を閉じながら、口だけを動かす。


「もし良かったら……私のお友達になって貰えるかしら」


「お友……達?」

「文化祭が終わってからも……こうやって、話して貰える?」


 佐伯が話したかったこと——それは、普段の佐伯からは考えられないような、内容だった。


 友達……?


 その時の佐伯の顔が目に焼き付いて離れない。


 普段から無表情で、無口。

 それなのに、今だけは見るだけで分かるくらいに緊張していて、いつもの女王様のような偉そうな態度もしていない。


 孤高の美女、佐伯雪音は他人に興味を示さない物だと思っていた。

 それ故に既読スルーを繰り返し、普段から冷たくあしらっていた。

 それなのに、何でこんな俺と友達になんて。


 佐伯と友達になったら俺の生活が……。


「ダメ、かしら……」


 友達ってこんな告白みたいな感じでならないだろ。

 でもそれだけ佐伯は、不器用なのかもしれない。

 そんな目をされたら……断るに断れないだろ。


「……か、構わないが」


 俺がそう答えると、佐伯はぱちっと目を見開いた。


「ふっ……これで今からわたし達は【お友達】になったのだから、今後はlimeで生返事禁止、あと3分以内に返事よ」

「なんだよその縛り」

「だってあなた、適当なスタンプで返事するから……」


 それは確かに否めないが……。


「分かった?」

「……あ、あぁ」

「そう。ならもう仕事に戻るわよ」


 佐伯は一瞬、口角を上げて椅子から立ち上がった。

 やばい、もしかしたらかなり面倒な事を了承したかもしれない。


「大狼くん」

「なんだ? まだ何か」


「……ありがとう」


 その時——少し心が、揺れた。




―――――――――――――

【あとがき】

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