15話 文化祭01〜玉里のメイド服〜


 ——文化祭当日。


 俺と佐伯は、実行委員の集会で渡された【文化祭実行委員】の腕章を巻きながら、見回りをしていた。

 この高校では、毎年文化祭実行委員が見回りをする事になってるらしく、当然、俺と佐伯にもその仕事が割り振られている。


 とりあえず俺たちは、2年生の階をブラブラ歩いて不審者がいないか目を光らせる。


「面倒ね……なぜ私がこんな事」

「実行委員なんだから少しは我慢しろ」

「……そんなの分かっているわ。ちょっと愚痴りたかっただけ」


 佐伯も愚痴ったりするのか……。

 普段の印象からは考えられないが、俺の前ではこんな性格だし、そこまで意外でもないか……?


「それにしても人が多いわね」

「ああ」


 中3の時に来た時も思ったが、この高校の文化祭は、他と比べて結構人が集まる。

 この高校、そこそこ偏差値が高めで倍率の高い人気私立校だから見学に来る中学生も多い。


「佐伯は中学まで海外に居たんだよな? 帰国子女ならもっと良い高校に行けそうなものだが、この高校を選んだ理由とかあるのか?」

「あなた、私に興味があるの?」

「お前というより、お前のに興味があるんだが」

「そう……つまらない人ね。正直になればいいのに」


 佐伯は呆れながらも、自分の志望動機について話し始める。

 

「妹の美代が、名門女子大の附属高校を受けると言っていたから、私もそこへ入学する予定だったのだけど……」

「だけど? 何かあったのか?」


「英語のテストが全滅で普通に落ちたわ」


 帰国子女とは一体。

 そういや海外にいた頃は妹に通訳を頼んでたとか言ってたもんな。

 しかし、佐伯が落ちたのにあの妹は合格したのか。意外とデキるやつだったんだな……口悪いけど。


「高校受験なんて興味ないし、落ちても気にして無いわ」

「興味無いって……そんなんでよくこの高校受かったな? 佐伯は性格的に玉里みたいに内申で受かるタイプでもないだろうし」

「失礼極まりないわね……あまり調子に乗ると、もうあなたとは会話してあげないわよ?」

「おう。それならそれで俺は構わな」

「強がらなくてもいいと思うの」

「一ミリも強がって無いんだが」


「古徳くーん!」


 階段の踊り場で佐伯と話していたら、上の1年の階から甲高い声が近づいて来る。


「玉里……なんだその格好」


 猫耳とフリフリのレースがあしらわれた黒と白のメイド服。

 鼻付近にはあざとく猫の髭が左右に3本ずつマジックで書かれていた。


「見て見てー可愛いでしょ?」

「……若干引く」

「なんでえ⁈ 古徳くんが喜びそうな服なのに!」


 玉里が「喜びそうな」と言った瞬間、隣にいた佐伯から冷ややかな視線が向けられる。

 俺はその視線に対抗して『違うからな』と念を送る。


「まっいいや。後でこのメイド服の自撮り送ってあげるから、部屋で一人の時に楽しんでいいよ〜?」

「んなもん送って来んな」

「にしし。じゃあ、お仕事頑張ってねー」


 文化祭だからか、やけに浮かれ気味の玉里は、俺の方に手を振りながら階段を上がっていった。

 相変わらず騒がしい奴だ。


「……………………」

「な、なんだよ、言いたい事があるなら言えよ」

「……………………ロリコン」


 佐伯はゴミを見るような目で俺の方を蔑視して来る。

 俺はロリコンじゃないって何度も言ってんのに。


「あなたには失望したわ。どうせ帰宅後に、メイド服姿の道藤さんの写真で、口にするのも憚られるような行為をするのでしょ? 本当に最低。低俗。変態。ロリコン」

「お前の妄想の方が怖いんだが」

「わ……私も……送ったら……その」

「は? 何か言ったか?」

「……もう行くわよ。仕事しないと怒られてしまうもの」

「お前も脱線してたくせに……」


 佐伯に促され、俺は仕事に戻るのだった。




―――――――――――――

【あとがき】

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