13話 買い出しパニック、デレもあるよ
——放課後。
「大狼、行こっか」
「おう」
佐伯に言われて放課後文化祭の買い出しへ行く事になった俺は、帰りのHRが終わるの同時に、一緒に行く町張から声をかけられた。
「雨やんで良かったねー。買ったものが濡れたら大変だし」
「そうだな」
朝から降っていた雨が止み、放課後になると太陽が顔を覗かせていた。
昇降口の前には水たまりが出来ており、雨上がりの生ぬるい風も入って来る。
limeで佐伯から「昇降口で待ち合わせ」と言われていたので、町張と一緒に昇降口を出ると、そこにはスクールバッグを肩に掛けた佐伯が立って待っていた。
「佐伯さん?」
俺より先に、町張が佐伯に声をかける。
もちろん佐伯は無言で町張の方を見た。
大きな瞳の町張と、鋭い眼差しの佐伯。
性格も容姿も月と太陽のように対をなす存在。
この二人の対峙に、俺みたいな日陰者は介入することすら憚られる。
喧嘩にはならない……よな?
俺が黙ってその場に佇んでいると、町張に向けられていた佐伯の視線が、今度は俺の方へと向けられた。
この目は『どういう了見か話せ』って目だな。
「町張も買い出し手伝ってくれるらしくて」
「…………」
「佐伯さん、よろしく」
「…………」
町張は普通に接しているのに、佐伯は拗ねた子供のように全く喋らない。
やっぱり、町張に対して敵対意識を持っているのか?
ノート一件が問題だとしたら、佐伯が一方的に町張を恨んでる理由に合点が行くが……佐伯って淡白な性格だし、他人に興味が無いからそんな事をいつまでも引き摺るとは思えないんだよな。
昇降口を出て下校する周りの生徒が、いつまでも立ち止まっている俺たちの方を見ている。
これは……さっさと移動した方がいいな。
丁度俺がそう思った時、佐伯が無言で歩き出したので、俺と町張は佐伯の後ろをついていく。
相変わらず何を考えてるが分からないが……佐伯の事だ、俺と二人きりになったタイミングで何かしら話してくれるだろう。
しばらくすると、いつも通り俺のスマホがバイブでlimeの通知を知らせた。
この流れは……。
当然、前を歩く佐伯からだった。
『さえき:あなたは人気者でいいわね』
佐伯が何を言いたいのかはサッパリだが、この文面からして、おそらく町張を連れて来たのが気に食わないのかもしれない。
「大狼っていつも佐伯さんとどうやってコミュニケーション取ってるの?」
「え、それは……」
俺は前を歩く佐伯の背中を見つめる。
なんて言ったらいいのやら。
「佐伯とは……ほ、殆ど俺が一方的に喋って連絡してるだけだ。返事くれないし」
「へえ……」
俺は適当にはぐらかした。
✳︎✳︎
クラス内の装飾品を選ぶため、高校周辺にある雑貨屋へ立ち寄る。
俺が買い物カゴを持ち、佐伯と町張が二人で話しながら(一方的に町張が佐伯に話しかけているだけ)装飾品を選んでいく。
最初こそ、佐伯と町張の間には暗雲が立ち込めていたが、町張が積極的に佐伯に話しかけていたからか、町張が「これはどう?」と話しかけると、佐伯は首を縦に振ったり、横に振ったりするようになった。
「んー、これは隣の百均に同じようなのがあるかもしれない。ちょっと見てくる」
「おい町張。それなら帰りに寄れば」
「大丈夫。あったら直ぐ買って戻ってくるからー」
町張はそう言って、店から出て行った。
帰りに寄ればいいのに。
町張は一つの事を始めたらそれを貫くような頑固な所があるのか、横に一旦置くという選択肢は出来ないようだ。
町張がいなくなって、佐伯と俺は目を見合わせる。
相変わらずその綺麗な髪と瞳は全く崩れておらず物静かでクールな印象を受けるが、彼女が俺を見るその目だけはうるさい。
「……あなた、最近調子に乗りすぎじゃ無いかしら」
やっと口を開いたと思ったら、なぜか佐伯から怒られる俺。
「自分の仕事が認められて、周りの人に煽てられて、気分が良くなっているんじゃないの? それに……町張さんとお近づきになれたようだし?」
「お近づきって。何かあったら町張にも頼むって決めたのは俺たちの総意だろ」
「…………うるさいわね」
佐伯は俺が持っていた買い物カゴを奪うと、背中を向ける。
「わ、私を……もっと頼ればいいじゃない」
佐伯はそうボソッと呟いた。
お前が俺以外と喋らないから、こっちは苦労してるんだが……まあ、あんまりその事を突っ込むと話が拗れるからやめておこう。
「佐伯には提出する企画書を書いて貰ったり、色々頼ってるだろ」
「……ありがとう、の一言は無いの?」
「は?」
「感謝の言葉よ……ほら、言って」
なんで命令形……。
でも言わないと面倒そうだな……。
「あ、ありがとうな……佐伯」
俺がぎこちなくそう言うと、佐伯は口をキュッと締めて、また俺の方に背中を向けた。
その瞬間、少しだけ笑っているように見えたのは見間違い、なのだろうか……。
「お、おい、さえ——」
「お待たせーっ、隣で買って来た……けど」
俺たちが話していたら、買い物袋を手に下げた町張が戻って来た。
「あれ、何かお取り込み中だった?」
「……なんでも無い。さっさと買い物済ませるぞ」
「う、うん」
町張は不思議そうに俺たちを見渡していたが、俺も不思議で仕方なかった。
✳︎✳︎
その後も買い出しリストを片手に店内を見て回っていると、またしても俺のスマホに通知が。
『さえき:妹から電話が掛かってきたから、少し外すわ。……間違っても町張さんと変な事をしないように。いい? 大人しくしてなさい』
そのlimeを見ていると、佐伯が俺に買い物カゴを渡して、俺たちから離れて行った。
大人しくって……俺はお前のペットか何かか? あと、変な事って何だよ。
「佐伯さんどうしたの?」
「俺にも分からん。スマホを出していたから電話とかじゃ無いか?」
「そっか」
俺はまたしても知らないフリをする。
俺と町張は、二人で買い出しリストを確認しながら、店内を歩いて回ったが、あるエリアの前で、急に町張の足が止まった。
プチプラコスメのコーナーだった。
「どうした?」
「え? あー、クラスの女子がこーいうの、よく話してるなって」
俺のクラスには陽キャ男子どもと仲良くしてるギャル女子が何人かおり、校則ガン無視でここにあるような化粧とかをしている。
「校則違反だから、わたしはしてないけど……」
普段は意志の固い町張だが、この時は年頃の女子らしく目を輝かせていた。
「もしもだけど……わたしがこういうの付けたら、少しは可愛くなれると思う?」
「可愛くなるかどうかなんて、俺みたいなのに聞かれても困るんだが」
「そ、そう、だよね……ごめん」
町張は乾いた笑いを浮かべる。
「周りの子が校則とか関係なく、そういうのやってるの見ると焦るっていうか。よく社会に出たら化粧が下手だと非常識とか言われるみたいで」
町張は弱々しい口調で言った。
年相応の憧れと周りと感じる温度差……しかし、委員長という立場上、町張も縛られている事が多いのだろう。
「ご、ごめん、大狼にこんな事言っても、何の解決にもならないのにね」
「そうだな……。でも、無理に周りに合わせなくてもいいんじゃないか?」
「え?」
「そりゃ周りに合わせたりするのが必要な時もあると思うが、町張は委員長として正しいことを貫いてるんだから自分に自信持てよ」
「自分に自信……」
「それに町張は、他のギャルどもと違って素がいいんだから化粧とかする必要ないだろ」
「えっ……?」
町張は急に頬を赤く染める。
あ…………。
クラスのギャルどもをバカにしたつもりだったが、今の俺、なんか女たらしみたいな事を言ったような。
「……ち、違う! 俺が言いたかったのは」
弁解しようとしたその時——。
「あなた……町張さんに変な事したの?」
俺の背後から背後霊みたいに現れた佐伯。
電話が終わって戻って来たようだが……今は町張がいるのに、こいつ喋っ。
「え……喋ったぁぁああー⁈」
町張はその大きな瞳を見開いて、どこぞのハンバーガーショップのおまけを貰った子供みたいに声を上げた。
―――――――――――――
【あとがき】
シャベッタァァァ
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