12話 文化祭準備と修羅場の予感


 大狼くんとカフェで話し合いをした翌週から、本格的に文化祭準備が始まった。


 文化祭まで残り2週間もないからか、いつも怠そうな顔をしている大狼くんも実行委員として毎日忙しなく仕事をしている。


 大狼くん……やる時はやるのね。

 普段は机で本ばかり読んでるくせに、文化祭実行委員になってからは常に動き回ってる。


 周りのクラスメイトは、大狼くんが前任の男子から仕事を押し付けられた経緯を知っているので、かなり協力的だ。

 それに大狼くんが嫌々言わずに仕事をしているからか、最近クラス内で大狼くんの株が上がり始めているらしい。

 以前、体育で大狼くんの事を話していた女子二人組も、大狼くんに話しかける姿が散見される。


 これは……由々しき事態かもしれない。


 私はlimeを開くと、大狼くんのトーク画面を開いた。


 ✳︎✳︎


 俺たちのクラスは文化祭で「喫茶店」をやる事に決まった。

 俺は美術とかの作品を置くだけでいい「クラス展示」に投票したが、わずか2票差で陽キャどもが推してた「喫茶店」が選ばれてしまったのだ。


 クラス展示なら特別な準備をする必要もないのに……実に面倒だ。


「はぁ……何でもいいから早く本が読みたい」


 週明けからずっと、文化祭関連で頭を悩ませていたから、疲れが限界に達している。

 できることなら誰とも関わりたく無いし、孤独でありたいが……実行委員の仕事をする上で他人との接触は避けられない。


 ここで俺が投げ出したら、それこそクラス中からバッシングを喰らうことになるし、恨まれるかもしれない。だから、やるしか無いのだ。


「お、大狼っ」


 原田と、いつも俺を小馬鹿にしてくる陽キャが俺の机まで来た。

 なんだ? 最近俺が出しゃばってるから、目障りだとか言いに来たのか?

 俺はお前らのために仕事してるってのに。


 俺が怪訝そうな顔で彼らを見ていると、原田が話し始める。


「あ、あのさ、仕事押し付けといてなんだけど……俺たちも手伝おうかなって」

「て、手伝う?」


 想定外すぎる提案に、俺は口がぽかんと開いてしまう。


「原田に全部聞いてさ……文化祭、やばいんだろ?」

「俺たち大狼のことずっと誤解しててさ。くじ引きの話とか聞いたら、全然イメージと違ったっていうか。よ、良かったら俺たちも手伝うぜ!」


 クラスの陽キャ男子四人は、照れくさそうに俺の方を見ていた。

 なんだ、文句を言いに来たんじゃ無いのか。

 何はともあれ、文化祭の準備を手伝ってくれるならありがたい。


「分かった。また人手が欲しくなったら頼むよ」


 こうして、俺はクラスの陽キャ男子と和解する事に成功した。


「大狼、何でも頼んでくれよ!」


 原田のやつ、意外といい奴……なのか?

 ……いやいや、俺に仕事押しつけて来たんだから、マッチポンプだろ。


 喜んでいいのか腹を立てていいのか。

 俺が複雑な気持ちでいると、急にスマホへlimeの通知が入った。


『さえき:放課後、文化祭の買い出しに行くわよ』


 また急だな。買い出しは別日に行こうと思ったのだが……まあ、いいか。

 俺が返信で「了解」と送ろうとしたその時。


「大狼、今いい?」


 俺がスマホを見ていると、プリントを両手に持った町張が、俺の机まで来た。


「どうした、町張?」

「このプリント、先生から大狼に渡すように言われたから」


 町張から渡されたのは、文化祭関連の書類だった。

 このクラスは飲食をやるので、その許可を得るために提出しなければならない書類があり、朝のHRの後、その紙を担任からもらう約束をしていた。


「おお、ありがとな」

「大狼、最近忙しそうだね。わたしにも何か手伝えることないかな? 買い出しとかなら、いつでも付き合うけど」


 買い出し……か。


「ちょうど今日の放課後、買い出しに行く事になってるが」

「了解。放課後に買い出しね?」

「あ、でも佐伯が……」

「佐伯さん? 佐伯さんがどうかしたの?」

「……いや、なんでもない」

「そう? じゃあまた放課後に」


 町張はそう言って自分の席へ戻って行った。

 この前カフェで佐伯が、町張とあまり仲が良くないような事を言っていたので、それが不安だが……町張の反応からして、そんな感じでもない、のか?


「女子同士の関係なんて俺が気にする必要もないか」


 こうして、佐伯と町張の二人と買い出しに行く事になった。



―――――――――――――

【あとがき】

何やってんだ……!

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