9話 カフェデートで核心に迫る
俺は佐伯の反対側の椅子に腰を下ろすと、その場でさっきの(堂々と盗撮された)写真を消させる。
「これで良し、と」
「何やら安心してるようだけど……さっき撮った写真は自動的にクラウドに送られるから永遠に残るわ。デジタルタトゥーを甘く見ないで」
「盗撮した本人に言われたくねえよ! それにお前にしか見られないんだから、デジタルタトゥーでも何でもないだろ」
「私にしか……見れない」
佐伯の口元が一瞬緩んだように見えたが、すぐにそれを手で隠した。
「……こ、滑稽ね」
「何がだ」
佐伯は時々訳のわからない発言をする。
性格も若干クセがあるし、本当は残念美人だよな……こいつ。
佐伯の方に目を向けると、佐伯はすぐに俺と目を合わせて離さない。
やけに好戦的な目つきだな。
少し遅れて来た俺に不満でもあるのか?
「少し遅れたから怒ってるのか?」
「あ、あなたって、女子とデートした事とかないの?」
「な、無いが」
「あらそう…………ならいいわ」
もっとキツく咎められるのかと思ったら、意外とすんなり話が終わる。
「お、怒らないのか?」
「私で、良かったわね」
「は?」
「初めてが私で、良かったわね?」
佐伯は薄らと得意げな表情でそう言った。
何が良かったのかも分からないし、話す度に上から物を言ってくるのが、若干腹立たしく思えてしまうが……ここは我慢だ。
俺が心の中で怒りを堪えていると、カフェの女性店員が俺たちのテーブルまで来て「ご注文お決まりでしょうか?」と訊ねて来た。
いつの間にか佐伯が呼んだらしい。
「……ミルクココア」
佐伯はコーヒーとか紅茶を嗜んでいるイメージだったが、ミルクココアって。
「じゃあ、俺はコーヒーで」
佐伯の注文の後に続いて、俺はコーヒーを頼んでおいた。
「あなた、コーヒー飲めるのね」
「え? ま、まぁな」
「……強がっちゃって」
佐伯は小声で呟くとお冷を口にした。
別に強がってねえっつの。
俺は怒りをグッと抑え、本題に入る。
「そ、それよりだな。文化祭の件、そろそろ決めないとヤバいだろ。俺は極力クラスのやつとコミュニケーション取りたくないし、できればお前に仕切って欲しいんだが」
「……嫌よ」
だろうな。佐伯の事だからそう言うと思った。
断られるのは分かっていたが、周りから疎まれてる俺なんかより、人気者の佐伯が前に立った方が、事がスムーズに進むと思ったんだが……。
「こうやって俺と話している時みたいに、他の奴と会話すればいいじゃないか」
「……それならあなたも同じ。あなたの方こそ、他の人たちと話せばいいじゃない」
「それは、そう、なんだが」
佐伯のリターンが強すぎて俺は口籠る。
「私もあなたも無理なのだから、何かを決める時は委員長の町張さんに頼めばいいと思うわ……あなたが仲良しの町張さんに」
最後だけやけにトゲのある言い方に変わる佐伯。
図書室の時も思ったけど、町張に対して攻撃的なのは、町張と仲が悪いからなのか?
定かではないが、この前の現国のノートの一件で、町張と険悪な関係になった……とか、あり得るかもな、
どちらにせよ、俺には関係の無い事だし、深く考える必要はないか。
「じゃあ、何かあったら町張に頼む。それでいいよな?」
「…………」
「何で急に無言になるんだよ」
「……別に」
また不機嫌そうな返事……佐伯が何を考えてるのか全然読めない。
町張の名前を出すと不機嫌になるし……。
佐伯はテーブルに置いていた本を閉じると、本の表紙を指でなぞった。
「ところで……あなたはいつも、休日は何をして過ごしているのかしら?」
「聞く必要あるかそれ? 今は文化祭の話を——」
「はあ……あなたって雰囲気を大事にしない人なのね? 出会って早々に仕事を済ませて帰るだけなんて、わざわざカフェに来た意味がないじゃない」
「だから俺はカフェなんかでわざわざ待ち合わせなくてもいいって言ったんだが?」
「……私に口答えするの?」
「し、しちゃ悪いかよ」
そう答えると、佐伯は無言で鋭い視線を俺の方に向ける。
昨日みたいに急に饒舌になったりしないよな……?
俺は身構えながら、佐伯が口を開くのを待った。
「……そうね。別に悪くはないわ」
佐伯の圧に押されてまた謝罪させられる所だったが、今回はなんとか耐えた。
「でも、時間はあるのだから……文化祭以外の話をしてもいいと思うの」
文化祭以外の話、か。
なら、試しにあの事聞いてみるか?
「……それなら、俺からも一つだけ聞いてもいいか?」
「一つだけ? あなたの事だし——卑猥な質問でもするつもりなのかしら?」
「する訳ねえだろ。あと俺を知ったかぶるのもやめろ」
佐伯が話の腰を折ろうとするので、俺は一度咳払いする。
あの事を聞くなら今、このタイミングしかないだろ。
今ならすんなりと教えてくれるかもしれない。
俺は意を決して、"あの事を"佐伯に問い糺す。
「佐伯、俺のlimeを既読スルーしない理由を教えてくれ」
俺はついにパンドラの箱へ手をかけた。
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