ウエイトドール

たい焼き。

ウエイトドール

 空を見上げると雲一つない晴天。

 気温も暑すぎず、そして肩を出したドレスを着ていても肌寒いこともなくちょうどいい。

 横に視線をうつすと愛おしい彼が、とろけそうな顔で私のことを見てくれている。


「本当にキレイだよ、美菜子」

「ふふっ、ありがとう。創一もばっちりキマッてるよ」


 5月21日、大安。

 私たちは今日、結婚する。




「お父さん、お母さん。今まで大事に育ててくれてありがとうございました。これからは創一さんとあなたたちのような温かい家庭を築いていきます」


 披露宴で両親に感謝の手紙を読み上げ、私の出生時の体重と同じ重さのくまのぬいぐるみをプレゼントした。

 両親はぬいぐるみを受け取ると、懐かしそうな顔を見せて喜んでくれた。


「美菜子はなかなかおなかから出てきたがらなかったから、大きかったのよね。懐かしいわ……」

「作ってもらうとき、お店の人にも言われたよ~。大事にしてね」



 それからしばらくは、創一との甘くも忙しい新生活に慣れるのに精一杯だった。

 両親からはくまのぬいぐるみを大事にしているという写真とメッセージが頻繁にきていたが、それもだんだん少なくなっていった。


 夫婦2人きりの生活にも慣れてくれたのかな。


 私はそんな両親への連絡をおざなりにしていた。



 * * *



「今度の正月はゆっくり休めるし、ご両親のところへ挨拶に行こう」

「そうね、しばらく連絡もとってなかったし、いろいろお土産もっていこうよ」


 創一と年始の挨拶の予定を決めて、準備していく。

 事前に両親にメッセージを送ったんだけど、忙しいのか返事が返ってこなかった。


 でも既読にはなっていたから大丈夫でしょ。


 お土産をたくさんもって、私の実家へと向かう。



 玄関のドアは施錠されていたので、ピンポーンと呼び鈴を鳴らす。


「はーい」


 母親の声が聞こえ、玄関のドアがゆっくりと開く。


「ただいまー!明けましておめでとう!」

「……あら?どちらさまかしら?」

「やだ、もうそんなボケ、お正月からやめてよ」

「いえいえ。失礼ですが、お宅を間違えていらっしゃいませんか?」


 母親はマジメな顔で続ける。


「それとも、そういう泥棒か何か?警察を呼びますよ?」


 玄関で母親と問答していると、家の奥からドタドタと足音が聞こえてきた。


「おい、母さん。何やってるんだ、美菜子が起きちゃうだろ」

「あ、お父さん!お母さんが変なの!」


 私は奥から出てきた父親に助けを求めると、父親はこちらをチラリと一瞥いちべつし母親に「知り合いか?」などと聞いている。


「お父さんまでどうしたの?私だよ、娘の美菜子だよ!」


 父親は眉をぎゅっと寄せて、こちらを睨んできた。


「何なんですか、あなたは。娘は確かに美菜子ですが、まだ生まれたばかりですし、そんな大きな声を出したら娘が起きてしまうでしょう」

「……は?何、言ってるの?」


 母親が慌てて父親のほうへ行き、「あぁびっくりしちゃったねー。大丈夫よーママはここでちゅよ~」と言いながら父親から何かを受け取って大事そうにだっこした。

 父親も「パパもいまちゅよ~」などと言いながら撫でている。



 それは私がプレゼントしたくまのぬいぐるみだった。

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ウエイトドール たい焼き。 @natsu8u

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