エクリシア帝国部隊交流記

@novluno

厄災の子と梟

傭兵集う国、エクリシア帝国。

この国には、種族問わず多数の傭兵たちが居る。

各国に戦力として行く前線部隊、戦場の福音とも称される治療部隊、影から敵を討つ暗殺部隊など、各部隊に配備されている者達の名前を挙げだせばキリが無い。

 夜間に一撃確殺の狙撃と、敵の意表を突く伏撃の息の合ったコンビを見せるのは、狙撃部隊第四伏撃班"梟"の班員たちだ。

 耐久力に秀でたドリュアデスたち狙撃手の移動や、観測手を務めるのは、強靭な肉体を持つドワーフ。

 中でも、ガーランド・アイラモルト伍長と呼ばれる男は、その類稀なる暗視能力で、観測手と伏撃を務めており、戦場で上げた戦果もその実力に反せず、実に多く表彰されている。

 彼らにとって、戦場にとっても欠かせないのは正確な情報。ひとたび戦争となれば、正しい情報も誤った情報も一定数出回る。戦場の人々が正確で重要な情報を得るために、情報司令部は存在する。情報司令部のトップを務めるのは、かつて栄華を極めた、今は亡き国で召喚された少年インサニア・ラクニア。

 戦場では心強い味方になる情報司令部と狙撃部隊。戦場以外ではどうかというと、、、



「がーらんど、おさけ、いっぱいのんだ?」


「あぁ、まぁな」


「おみずあげる。ゔぁにてぃーじもおさけいっぱいのんだ?」


「そうだな。水ありがとう。」


 酒と煙草をこよなく愛し、戦場では【酒保泣かせ】の異名を持つガーランド。束の間の休暇をもらったのなら、沢山飲むのは当然の事だろう。

酒場とは無縁のはずのインサニアがここに来た理由、それはカウンターで煙草をふかしているガーランドの隣で酔い潰れている男を回収する為だった。

 ヴァニティージ・グレイサム、暗殺部隊第三分隊の長を務めている青年。こちらも酒を愛し、任務のない日は必ずと言っていいほど昼間から酔いつぶれている姿を確認できる。

 時刻は午後7時を回ったところだ、積みあがっているグラスを尻目に、ヴァニティージを引っ張ろうとする、が、びくともしない。

 今のヴァニティージは完璧に酔い潰れ、眠っている。体格で負けており、力も弱いインサニアが動かそうとするのは至難の業である。


「うごかない、、、、どうしよう」


悩んでいたその時、おもむろにガーランドが立ち上がった。会計にでも行くのだろうか。そう思っていたら、ヴァニティージを持ち上げた。


「がーらんど?なんでもってるの?」


「お前が持てなさそうだったからだよ」


そのまま会計を済ませると、店の外に出た。

天には、満天の星空が広がっていた。初夏の夜の風が、自身の頬を撫でていく。


「がーらんど、ありがとう」


「あぁ、、、どういたしまして」


肩を並べて歩く二人の心の距離は、少しだけ縮まったようだった。

次の日、ヴァニティージは酷い二日酔いの中インサニアに怒られ、文字通り地獄を見たのであった。

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