忘れさせてくれ

サッカーを本格的に始めたのは中学からであった。

 俺には才能があると思った。



 そんな自信が脆くも崩れ去ったのは、中学の北海道大会の時だった。

 冬月雪兎。

 簡単にボールを奪われる。

 ボールを持ったら、軽やかなステップでゴールまで一直線。

 圧倒的だった。

 才能の差を嫌でも分からされた。

 俺は、お山の大将だったと思い知らされた。


 中学で、もうサッカーはやめようと思って、サッカー部のない学校を選んだ。


 しかし、待っていたのは冬月雪兎。

 何故、奴が同じクラスに⁉


 どうやらサッカー部を作るそうだ。

 だが俺にはもう関係ない。


 ある日、真葛が話しかけてきた。

「次の試合、助っ人として出てくれないかい?」

 どうやら俺がサッカー経験者だと聞いてきたようだ。

「もうサッカーは辞めたんだ」

「そんなこと言わずに、一回だけでもいいからさあ!」

 上手く乗せられて試合に出ることになってしまった。


 同じクラス、同じチームになると、冬月雪兎のことが少し分かってきた。

 いつも、ヘラヘラ笑っている、ゆるふわ男子。

 悪い奴じゃない、たまに変な発言もするが憎めない奴。


 試合では、あいつの後ろを守るのだ。


 ああ、早く忘れさせてくれ。

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