ケンカ

 春は激怒した。


「どうせ君のことだからプロポーズの台詞は『月が綺麗ですね』なんだろ?」

「な、悪いか⁉」

「え、本当にそれ言うつもりだったの? これだから頭が文学してる奴は……」

「これを理解してくれる人としか結婚しないからな!」

「なら、一生独身決定だね!」

「秋人だって、どうせ結婚出来ないだろ!」

「ハッ、僕は将来社長になるんだからその辺は困らない!」

「それ秋人自身じゃなくて金に惹かれて付き合ってるだけだね、悲しい奴!」

「金に惹かれることの何が悪い?」

「これだから銭ゲバは……。そもそも秋人は男が好きじゃないか! 女と付き合えないだろ!」

「僕は男色家じゃない! 雪兎君みたいなこと言うな!」

「だって、暦さんのこと好きなくせに!」

「僕は暦さんのことを純粋に尊敬してるんだ! それを恋なんかと一緒にするな!」

「恋なんかとは失礼だろ」

「誰に?」

「全国の恋する乙女に!」

「ああ、そういえば君もそうだったね、撫子さんのことが好きな春ちゃん」

「お前が春ちゃん言うな!」

「既に彼氏がいる人を好きになるなんて、どうせ叶わない恋に身をやつしているなんて、時間の無駄だと思わないの?」

「しょうがないだろ! 好きになっちゃったんだから! 秋人には絶対にこの気持ちは分からないだろうけどな!」

「ああ、分かりたくもないね!」


 

 今週は本当に忙しかった。目が回るとは、このことだ。

生徒会の仕事とテスト週間と受験勉強とサッカーの試合が重なっている。

ああ、忙しい忙しい。

急に目の前が真っ暗になった。


 どうやら僕は倒れたらしい。

「秋人! おい、秋人!」

「……あ、え、春?」

「起きた! 良かった~」

 僕は保健室のベッドで寝かされていて、ちょうど今、目覚めたのだった。

「お前、色々と抱え過ぎなんだよ!」

 泣き顔の幼馴染の手を取る。

「君が嫁になってくれると腐男子的には嬉しいね」

「なるわけないだろ」

「まあ、そうだろうね」


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