さねち語り

凛と秋人

初めて見た時、綺麗だなと思った。


「初めまして。本日から御社の顧問弁護士を務めさせていただきます、烏丸凛と申します」


「…あっ、はい、真葛コーポレーション社長、真葛秋人です。こちらこそよろしくお願いします」

 綺麗な顔、心地よい声に見蕩れ、挨拶のタイミングが遅れてしまう。



「社長でも、こんな大衆居酒屋に来るんだねぇ」

「はい。学生時代に友人と来たことがありまして。それに安いですから。逆に高級店は落ち着かなくて嫌なんです」

「ふうん」

 大衆居酒屋に不似合いなのは烏丸さんの方だ。仕事帰りのサラリーマンか暇な大学生で溢れている店内では、弁護士バッジを付けたイケメンは明らかに浮いている。


 烏丸さんの前で失態を見せる訳には行かなかったので、酒は程々にして、つまみで適当に腹を満たしていた。

「真葛君、時間大丈夫?」

 手元の腕時計を見る。午前一時を回っていた。明日は特に重要な案件はないが、働き方改革のあれやこれやを考えたり、新規プロジェクトの資料作りを進めたりしたかったのだが……。

「大丈夫です! まだまだ行けます!」

「いや、学生じゃなんだから。もう今日は帰って休みなよ」

「えっ、でも……」

 烏丸さんは僕の反論を遮るように席を立つと、自然な動作で伝票を持っていった。

「じゃ、お会計してくるから」

 え? お会計してくる? 

 ついぞ聞かなかった言葉に戸惑ってしまう。学生時代から今にいたるまで、友人(主に雪兎君)にたかられ、その度に割り勘を強行してきた。社長になってからは、もう一生されることのないであろう行為。

 おごられる!

 烏丸さんに⁉ は、え、いいの?

「ダ、ダメです、烏丸さんに払ってもらうなんて!」

「別にいいよ、これくらい」

 そう言って財布から札を出す間、数秒。

 お、おごられてしまった。

 しかも、あんなスマートに会計を済ませるなんて……。

 は~~~~~~~~あ~~~~~~、好き……。


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