撫子日記

結婚

 暦と別れて、私は普通に短大に行き、普通に卒業した。卒業後数年は近場の役所で働いていた。恋愛はしなかった。

 見かねた両親がお見合いを提案した。真葛家の分家に相応しい、それなりの良家が選ばれた。

 大阪に住んでいる警察官の長男で、土地も持っている。

 それが後に夫となる、逢坂薫だった。



 見合いは真葛本邸にほど近い京都の料亭で行われた。


「後は若いお二人で」

 お決まりの台詞が言われた後、両親は出て行った。

「とりあえず、庭でも見に行きまひょか」

「あ、はい」


 少しの沈黙の後、薫が先に口を開いた。

「嫌やったら全然断ってくれてもええんやで。わいに気にせんといて」

「え、どうして……?」

「だって、何となく嫌そうな感じやん」

「え、えっと……」

「撫子さんは、本当に結婚したいんか?」

「私は……」


 昔、付き合っていた暦のことを話した。

 まだ、彼のことが忘れられない、のかもしれない、と。


「そうか。話してくれて、ありがとうな」

「ごめんなさい」

「結論出すのは、別に今日じゃなくてもええよ」


 初回のお見合いでは、お互いの連絡先だけ交換した。

 それから、何度か会った。二回目以降は、水族館など、ラフな雰囲気の場所で集合し、一緒にご飯を食べたり、動物を見たりと、普通のデートみたいなことをした。


「別に恋愛感情なしで、結婚でもええんやないかな」

 三度目のデート?で、薫はそう言った。

「どういうこと?」

「親の期待に応えてやるのもええかなって」

「確かに、親は早く結婚しろって五月蝿いかも」

「せやろ。わいは、どうやっても暦君に勝てへんもん」

「ごめん」

「だから、謝らんといてえな。撫子ちゃんが暦君のこと、ずっと好きなのは仕方ないことやもん。だから、わいも暦君に勝とうとか思わへん。でも、結婚してくれるなら、わいは暦君に負けへんくらい、撫子ちゃんを幸せにしたいとは思うとるで」

「……ありがとう」


 その後も、何度かデートを重ね、正式に婚約、一か月の同棲の後、私達は結婚した。


 

 子どもも二人生まれた今、私は幸せだと思っている。

 暦のことは、忘れることはできないけれど、私は薫を愛している。


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