敵と味方

 彫木中学サッカー部は完全に冬月雪兎のワンマンチームだった。誰もが雪兎に頼り切っていた。実際、雪兎が部に入ってから二年間、一度も負けなかった。

 それが中学三年の最後の全国大会、睦月のチームに敗れた。

 あちらはそれ程のスター選手はいない代わりに皆がよく動いていた。個人対全員、という正反対のチーム同士がぶつかり、ワンマンチームは敗れた。

 ああ、負けたんだなと思った。それだけだった。

 試合後、いつものように、一番仲の良かったと思うチームメイトに声をかけた。

「あ~あ、負けちゃったね~。初めて負けちゃったよ」

 へらへらとした口調だった。それも悪かったのかもしれない。

「俺はお前とサッカーやっても楽しくないんだよ!」

 泣いていた。

 今まで頼ってきたくせに、僕がいないとここまで来られなかったくせに、突然の掌返しに少しムッとはしたが、何も言い返さなかった。

 きっと無力な自分が惨めだから、涙を流していたのだろうと思った。


「俺は楽しかったけどな」

 敵に励まされるとは思ってもなかった。

 睦月に、そう声をかけられて、少し救われたような気がした。


 その後、ユースチームでも色々あった。

 自分以外のメンバーは、皆、サッカーを本気でやっている。

 プロを目指して、日々、努力している。

 そこに、決定的な温度差を感じた。

 


 高校に入って、面白い奴と出会った。

「君には才能がある。僕がいくら努力しても君には敵わない。君が敵だったら白旗を上げてるところだけど、運の良いことに今は味方だ。これを利用しない手はない」


「チームの絆とかそんなことはどうでもいい。僕は勝てればそれでいい」

真葛秋人。

 今まで会ったことのないタイプの奴だった。

サッカーが好きだからサッカーをやるのではなく、サッカーを手段として捉えている。

こいつといる方が幾分か楽になれるような気がした。


 

 そして、高校二年の頃、無名の新設校、私立毬藻高校は全国優勝をした。

 正直、こんな僕達が優勝してもいいのかとさえ思うほどだった。

 それくらい奇跡的なことだった。


「優勝おめでとうございます。……で、将来の夢はやっぱりプロサッカー選手?」

「いえ、社長です」

「あ、ちなみに僕は牧場でスローライフでっす」

 その時のインタビュアーの顔は今でも忘れられない。


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