先輩と俺  番外編

夢水 四季

雪兎過去編

東条睦月

 あまり知られていないが、冬月雪兎は中学時代にも全国制覇をしている。

 北の大地が生んだスーパースター。

 彼と同世代でサッカーをやっていた者なら、冬月雪兎の名前を知らない者はいない。

 全中制覇、そしてその後の全日本ユースによる国際親善トーナメントの優勝。

 そんな輝かしい業績を持っている雪兎の所に強豪校からのスカウトが入って来ない訳がない。

 しかし、それを全て蹴って、自宅から一番近い、サッカー部もない新設の高校へ進んだ。

 ユースチームのメンバーからも驚きの声が上がった。

 冬月雪兎はサッカーを辞めるのではないか、という噂も流れた。


 東条睦月。

 ユースチームでは雪兎と最も仲の良かったとされる人物である。

「雪兎、お前サッカー辞めないよな?」

 相手が電話に出るや否や挨拶も無しに切り出す。

「う~ん、さすがに辞めはしないと思うよ」

 焦燥感に駆られる睦月とは裏腹に呑気な声で雪兎は答える。

「じゃあ、何でサッカー部の無い学校に行くんだよ?」

「家が近いから」

 そんな単純な答えを睦月は許さなかった。

「俺はお前とまた全国で戦いたいんだよ、高校生になっても!」

「何~? むっくんってば寂しいの~?」

「寂しいっつーか、まあお前がサッカー辞めたら寂しいけど」

「あらあらぁ」

 本気の言葉を軽く受け流すように雪兎は続ける。

「ま、会えたらいいね、また全国で」


 他愛もない話で数十分は喋った後、ケータイの電源を切り、雪兎は睦月の顔を思い浮かべる。

 ユースチームの合宿中は同室だった、一つ下の少年。ツンデレで少し生意気で、でも懐くと可愛い。そして、ひたすら努力をする。

 才能ではどうやっても勝てないのに、追いつこうとしてくれる。

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