5話:綺麗な場所を見に行こう
学校から
一段の幅が広く角度はそこまで急ではないものの、高さはあり段数は多そうだ。体力は自信ないんだよな、大丈夫かな。
「ここの頂上の景色がとても綺麗なんです。ど、どうでしょうか。私の一番のオススメなのですが……!」
ここまで来て登らないという選択肢はないだろう。そんなことをすれば悲しむのは目に見えているし、俺も登れるものなら
バッグの中には財布とメイク道具くらいしか入っていないし、背負っていれば重くはないな。気合と根性で登るしかない。
「面白そうじゃん。何段ぐらいあるんだ?」
「んー、多いね。四百段ぐらいかな……登り甲斐がありそうだね」
俺はまぁ、その、男装女子という立場なので性別ごとにグループ分けされる体育は受けにくいから見学をしているが、そもそも普通に運動は苦手だ。
「……抱っこだ……抱っこをしろ……頼む」
「抱っこ、ですか? それは構いませんが……ごめんなさい。もっと行きやすい場所の方が良かったですね」
「……いや、いい……でも帰らない……仲間外れは嫌だから……抱っこして、登らせてくれ」
なんだと。
くっ……俺もして欲しい。でも見た目が男の俺が、見た目が女の子の
「まぁ、とりあえず登ってみようか。疲れたら休みながら行こう」
「よし来た、じゃあ
元気よく飛び出した
「こら!! 走っちゃダメですよ〜!」
至近距離から聞こえた、お腹の底に響きそうな程の大声。誰だ、もしかして
それも当然か。いくら筋肉があっても、可愛い顔をして女の子の制服を着てオドオドした喋り方をしている
「ダメですよお二人とも。もしも転んだり、ましてや今は居ませんが他の方にぶつかったら大変です。左側をゆっくりと歩きますよ」
「わ、分かった……」
「今のは僕達が軽率だったね……気をつけるよ」
反省している二人を見ていると、入学式の朝の出来事を思い出した。そういえば三人の不良を一撃で倒している人なんだよな
怒った理由はもちろん正しいことだけど、あまり怒らせないようにしよう。うん、それがいい。
「あ、あはは……ごめんなさい、え、偉そうに……では登りましょうか!」
怒り終わって気まづくなったのか先頭を歩いて階段を登ろうとしている
あ、待って。それはやめた方が……いや、俺が言うのは不味いか、でも誰かが言わないといけない……困った。
「……おい……下から……パンツ見えるぞ」
場の空気が凍った。俺が言いたかったことを
そう、スカートを履いて階段を登ると下から見えるんだ、そんなものはスカートを履いた経験がある人間の大半が理解している。俺だって中学まではそうだった。下にスパッツか体操服のズボンを装備していないとダメなんだ。
「…………あ、ありがとう……ございます」
今度は
一向に進まないな、とりあえず先頭は俺らで後ろから着いてきてもらおう。それが安全だ。
本当に人間を一人抱っこしているのか。すごい力だな。
「なぁなぁ
「ん、いえ……
「そっか、俺達と
「ふふ、ありがとうございます。お昼休みとかにお邪魔させてもらいますね」
「ねぇ
「あ、それは……お家の環境と言いますか、その。厳しい家でして……」
「大変だね。でも気疲れするでしょ、そのうち気軽にタメ口で話せるようになったらいいね」
「そうですね……あ、いや……そ、そうだね」
「はは、無理はしなくていいよ。のんびり行こうよ、何事もさ」
人間を抱えて階段を登って疲れた様子を見せないなんて、どんな体力をしているのだろうか。
「よっし……登ったぞ! って、神社か?」
先に登りきった
となると長い階段がある理由にも頷ける。そういう神社って何ヶ所かあるみたいだし。
俺も頂上まで登りきると、鳥居と狛犬、そして拝殿が目に入った。どれもかなり年代を感じる様子で、あまり参拝客は居ないのだと思う。
「この頂上から見る景色がとても綺麗なんですよ。ほら、ここから……」
「……おぉ……学校が小さい……私の家も見える」
境内には木はもちろん花も生えているし、確かにいい景色な場所だな。
「折角来たんだ、神様に拝んで行こうぜ」
「いいね。でも手水舎は手付かずでかなり汚れているようだね……」
拝むのはいいが、拝む時の作法なんて昔聞いた気はするけど忘れたな。確か鳥居の前で頭を下げて、手を洗って、拝むのだったか。いや待て、賽銭箱に入れる小銭が必要だな。何円入れるのが相場なのだろうか、安すぎたら神様に怒られるのかな。
「……作法、知らない……でも真面目に祈ればいいと思う……神様はきっと懐が広い」
良いことを言うな。そうだな、真面目に祈れば神様も許してくれるだろう。
皆で賽銭箱の前に立って背筋を伸ばして頭を深く下げる。頭を上げて、もう一回同じように下げてから二回手を叩く。
お金が降ってきますように
お金が降ってきますように
お金が降ってきますように
お金が降ってきますように
純粋な気持ちで不純な祈りを捧げる。どうか神様お願いです、たまにはモヤシ以外を買える程度の財力を恵んでくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
「
「ん? 世界平和に決まってんだろ」
「嘘こけ、どうせ金か肉だろ」
どうしてバレたんだ!
まぁいい、どうせ
「そうだ。ここで何か遊べたら楽しそうだね、何をしよっか」
「うーん。神様の前であまり走るのは失礼ですが、隠れん坊ぐらいなら許してくださるのではないかと……!」
「おっいいな、
「……遠回しに……チビと言ったな……この短足め」
マジか、隠れん坊とか何年ぶりだよ。
でも面白そうだ、ここには隠れられそうな場所が山ほどあることだし、まだしばらくは明るいだろうから少しは遊べるだろう。
「よし、じゃあオニ決めようぜ。じゃんけーん……」
俺の掛け声に続いて『ポン』と手を出す。一回では決まらないので何度か繰り返して
今は一緒の道を
「今日はとても楽しかったです。また遊んでくださいね」
「こちらこそ。
ここで手でも繋げれたら最高なのだが、なかなかそういうことは出来ない。告白して振られている立場なのだし、それがなくても緊張してしまう。
ただ隣で歩けるだけで嬉しい。
話をしていると右側に公園が見えてきた。俺はこの道を真っ直ぐ進むし、
「では
「あっ……はい。ま、また明日……」
なんだ? 今まで普通に喋っていたのに急にどうしたんだろうか。もしかして公園デートに誘ってくれようとしているのか。いや待て、そんな都合の良いことを考えるものじゃ―――
「…………ま、また明日ね、
「えっ」
想定していなかった言葉に俺が反応する前に
なんで急にタメ口……あ、さっき
今度会った時は俺もタメ口で話してみよう。
あぁ、マジでありがとう
今日は本当に良い日になったなぁ!
END
―――――
・おまけ
登場人物紹介
性別:男性
学年:一年生
誕生日:一月二日
好きなもの:楽しいところ
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