6話:瑠織の長い週末
どこか遠くの方で綺麗な声が聞こえます。
心地よい声のような、うるさい声のような、どちらかと言えば後者なので今は静かに寝かせて欲しいですね。今日は土曜日なのですから学校はお休みですし、十時まではこのままベッドで過ごしたいです。
「いい加減起きなさい
声の主はお姉様ですね。土曜日なのに七時から起きたくはありません、聞こえないフリをしましょうか。大体、普段であれば休みの日に起こしに来てくれることはないのに今日に限ってどうしたのでしょうか。
それでもお姉様の行動はきっと善意によるものなので無視するのは失礼ですね、とりあえず返事をしましょう。
「ふわぁ……お姉様、今日は土曜日なので学校はお休みですよぉ」
「いいえ、それは違うわ。今日は土曜日ではなく金曜日よ」
はて、金曜日。
そんなはずはありません、お姉様も多忙なのでお疲れなのでしょう。もし本当に金曜日だとすれば間違いなく遅刻ですね。普段は七時には顔を洗って朝食をいただいている時間ですし。
どれどれ、携帯で日付を確認しましょうか。
『五月十七日 金曜日 七時十二分』
「………………わーーーっ!!」
大胸筋が爆散するかと思うほど驚きました!
やってしまいました、今日は学校がある日です。生徒会に入っている身で寝坊なんてすれば格好がつきません。あっ終わった、絶対に間に合わないですコレは。
ど、どうして今日が土曜日だと錯覚を……いや理由はなんでもいいです、とにかく準備をしなければ。
顔を洗って髪型を整えて男の子の制服を着て、教科書やノートもカバンに入れて急いでリビングに向かいます。今週の料理担当はお姉様なので豪華な朝ご飯が机に並んでいますが、申し訳ないことに味わって食べる余裕はありません。
「
ううう、正論です。遅刻をすることで他の方達からどう思われるか不安ですが健康の方が大事です。せっかく作ってくださった食事を残すのは失礼ですし。
まずは遅刻してしまうことを学校に電話して、落ち着いて朝食をいただくことにしましょう。
「……あっもしもし、おはようございます。一年一組の
まさか入学して二ヶ月も経たずして遅刻をしてしまうことになるなんて。
あ、でも
……いや、そんなこと言っている場合じゃないですね。
「私は仕事に行くわ。
「分かりました。行ってらっしゃい、お姉様」
お姉様が出ていったので家の中は私だけになりました。今日はお父様もお母様もお兄様も既に仕事に行っているので、お姉様がいなければ寝坊して無断欠席するところでしたね。
本当に危ないところでした。と、とにかく朝食をいただきましょうか。
お米と納豆、焼き鮭と卵焼き、そしてお味噌汁。一口サイズに切ってくれたバナナとリンゴもあります。美味しそうですねぇ、お姉様は本当に料理がお上手です。
使用している材料は変わらないのに、どうして私が作ると上手に出来ないのでしょうか。そもそもお母様やお姉様がどうしても忙しい時を除いて私は料理をさせて貰えないのも不服です。
十五分程で食べ終わり、食器を片付けて歯を磨いて家を出ます。もう少ししたら朝のホームルームが始まる時間なので、普段通り歩けば一限目の終わり際に到着しそうです。
忠告されたことですし慌てて行くのは止めておきましょう、のんびりと……あら、電話がかかってきました。
「おはようございます
『おはよう親友。どうしたって、お主が学校に来ないから心配してるところだぜ〜?』
「あ……すみません寝坊しました。二限目には間に合うと思います」
『おぉ珍しいな親友。気をつけて来るんだぜ〜』
「ありがとうございます。では後程」
昔から自分のことは本当に無頓着なのに私のことになると何でも気を使ってくださる方なので、今日も落ち着かずに私の机の周りをクルクルと回っていそうですね。悪いことをしました。
……と、考えながら歩いているとマンションに着きました。毎日のことですが、ここで女の子の制服に着替えてメイクをしてから学校に行くのは二度手間ですね。
全ての用意を家で済ませれば良いのですが、そんなことをして女装していることがお父様にバレたら殴られてしまうので仕方ないです。
他にも家に置けないような可愛いグッズも全部ここにあるので、このお部屋で生活すれば楽しそうですね。でも食事から洗濯から自分で全部して勉強もするのは大変です。お父様も許してくれませんし高校の間は家から出られませんね。
男の子の姿でマンションに入り、手早く準備を済ませて女の子の姿でマンションから出る。これで後は学校に向かうだけですね。はぁ、一人で歩くと長く感じます。
通学路の途中にある公園で
「……もし会えたら公園デートなんて……ふふ、楽しそう」
一緒に帰る時はいつも公園で遊びたいと思うのですが、子どもっぽく見られそうなので誘えないんですよね。本当は一緒に遊具で遊んでみたいのですが、流石に高校生でそれは厳しいでしょうか。
そういえば
「……気持ちは嬉しいです。でも私、恋愛というものが分からなくて……それに…… 私、あの……男の子なので……それでも大丈夫でしたら……よ、よろしくお願いします」
って言おうとしていたのでしたっけ。でも
まぁ、女の子だと思って告白した相手が男の子だったのですから、当然の反応でしょうか。
でも
「……そんな都合のいい話、ある訳ないかぁ」
夢を見すぎですね。あーぁ、私は性別なんてどうでもいいので
私が普通の女の子なら付き合えたのでしょうか……そもそも私って変ですもんね。女の子の制服を着ているけれど身体はしっかりと筋肉がついています。
お父様に格闘技を無理やり習わされて、トレーニングもさせられて、こんな身体になってしまいました。
まぁ、でも強くして貰えたので
「…………あれ、
変な人が声をかけてきたのかと思いましたが、とりあえず振り返ってみましょうか。
「あ、やっぱり
「え、あ、
本当に
私とほとんど同じ身長で、お肌は真っ白でほっぺは柔らかそうで、線は細くて不思議といい匂いもします。って、なんで
「
「あっ私も……いや、私はその、寝坊しました」
何かあったのかと思いましたが、
「五月って本当に眠いですよね、力が入らないというか。五月病って奴でしょうか」
「そ、そうですね……過ごしやすい気候だとのんびりしてしまいますよね。分かります」
本当に眠そうに何度もあくびをしている
「そうだ。今日、予定がなかったら遊びに行きませんか?」
「あ……申し訳ないのですが、今日は生徒会の方と会う予定がありまして……」
お誘いは嬉しいのですが今日は
「あ、あの
「明日ですか。明日は……うん、大丈夫ですよ、是非行きましょう!」
快く応じてくださいました。よかった、では明日は初めての休日デートということです。ど、どうしよう。付き合ってるかどうかの話を聞く大チャンスではないでしょうか……!?
END
――――
・おまけ
登場人物紹介
性別:内緒だぜ〜
学年:一年生
誕生日:4月1日
好きなもの:棒付きのキャンディ
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