4話:友達集合!

高校へ通うための手段として一般的なものといえば、徒歩か自転車かバスだと思う。中でも自転車を使用している生徒は多いのではないだろうか。俺もその一人だ。


家を出たら自転車でバス停まで移動し、バスに乗り終えたら徒歩で学校に向かう。学校からバス停までは徒歩で十分くらいの距離だが、その間に縦原たてはら高校の生徒はほとんど見たことがない。

ただ俺がバス停から学校へ歩いている途中に、別の道から瑠織るおさんが合流してくることがある。つまりその地点で待っていれば朝から瑠織るおさんに会える可能性が高い。


「おはようございます瑠織るおさん。今日もいい天気ですね」


「お、おはよう……ございます、うたさん! そうですね、今日も走り込みをしたくなるほどの快晴です!」


早起きをした甲斐があったというものだ。朝から一緒に学校に向かうことができる。別に用事があったわけではなくて他愛ない話をしているだけだが、それが楽しい。

ここでお弁当を渡されたら嬉しさと悲しさの二重の意味で血の涙を流すことになりそうだが、今日はないようだ。


楽しい時間はあっという間にすぎるもので、気がつけば学校に着いていた。校門の前にはスーツ姿の長身の男性が立っている。生徒指導の先生であり、体育の担当でもある兎川うさぎがわ景修けいしゅう先生だ。

両サイドの髪を剃って上部分を結ったマンバンという髪型で、体格もよくて目つきも鋭いので見た目はとても怖い。でも生徒想いの優しい人だということは一ヶ月も通えば分かるようになった。


縦原たてはら高校は生徒だけでなく先生も見た目に関しての規則が非常に緩い。これは校長先生の方針のようで、制服を着ていない生徒もいるしジャージ姿の先生もいる。授業をサボったりテストの点数が低くても課題をこなせばお咎めなしだ。

ただ挨拶面や連絡無しの無断欠席については厳しく、指導対象になれば兎川うさぎがわ先生との面談になる。


「……おはようございます。木津きづ春宮はるみや


「「おはようございます!」」


二人で声を揃えて挨拶を返す。二百人近い一年生の名前を一ヶ月足らずで覚えているのは本当に凄いと思う。俺なんて同じクラスでも名前を知らない人がいるのに……。


校舎に入り靴を履き替えると、瑠織るおさんと一緒の時間は終わりを迎えた。俺達は教室が離れているから階段を上ると別れてしまうのだ。


「ではうたさん、また放課後に会えたら……」


「はい、また放課後に!」


名残惜しいが手を振って自分のクラスである六組に向かう。まだ半分程度しか登校していないようで、俺の友達でいえば音夢梨ねむりしか来ていなかった。


「おはよう音夢梨ねむり、いつも早いなぁ」


「……おはよう……お姉ちゃんに叩き起される……だから早い」


なるほどな。音夢梨ねむりが一人で早起きするイメージはなかったが、姉に起こされているのか。そういえばラーメンの時にも姉の話をしていた気がする。

俺は一人っ子だから姉という存在が羨ましいが、兄弟や姉妹がいる人間からは一人っ子が羨ましいという声を多く聞く。つまりは無い物ねだりなのだろう。


「……今日の放課後……暇なら、四人で遊ぶか?」


「あー……暇というか、一組の友達と会う約束があってさ。その人も一緒でいいなら遊べると思うよ」


四人というのは俺と音夢梨ねむり、そして幹彦みきひこえいを入れたメンバーのことだ。休み時間も放課後もこの四人で遊ぶことが多く、いわゆる固定メンバーというやつだ。

瑠織るおさんと会う約束をしたから勝手に決めるわけにはいかないが、多分だけど大丈夫だろう。後で聞いておくか。


「……木津きづ、私たち以外に……友達がいたのか」


「うるせぇよ。お前だって俺ら以外に居ないだろ」


「……ふっ、甘い……三組の半兵衛はんべえ途子とこは……友達だ」


「マ、マジかよ。じゃあ今度その人らも誘って遊ぼうぜ」


友達の数なんて競うものではないが、他のクラスの人なんて瑠織るおさん以外は知らない俺にとっては少し負けた気分になった。そんなことを思っていると眠そうな顔のえいが教室に入ってくる。


「あーー……眠たい。おはよう二人とも、早いねぇ」


「おはよう。なぁえい、お前って俺ら以外の友達っている?」


えいも俺ら以外の友達はあまり居ないように思うので聞いてみよう。幹彦みきひこは聞くだけ無駄だ、アイツは底抜けの根明で誰とでも喋っているから、男子は全員友達とか言いかねない。


「え、うた君と白尾しらおさん以外の友達? 幹彦みきひこ君と……他は居ないかな。友達の定義ってよく分からないし」


よし勝った。いやまぁ、友達は多い方が良いという話ではない。多くても深い関係ではない場合や、少なくとも深い関係な場合もあるわけだし、自分がどちらを好むのかにもよる。

結局は自分が友達でいたい人と友達でいることができれば、それで良いのだろう。


「……ふむ……倉持くらもち、友達の定義……って?」


「そうだねぇ。当たり障りない会話をすることが友達なら僕の友達は多いけど、一緒にご飯を食べに行ったりする人が友達なら他には居ないって感じかな?」


「……なるほど……言いたいことは、分かる」


なんだか深いことを言っている気がする。前から思っていたがえいは独特な世界観を持っているから、俺達とは違った物の見方をしている時があるけど、今回のは俺でも理解できる。なるほど、友達の定義か。考えたこともなかったな。


「お〜っはよう! なんだ、もう皆来てたのか。俺がビリだ……あ、悪い。なんか真面目な話してたか?」


朝から元気な声を上げて幹彦みきひこが入ってきた。コイツにしては珍しく早い方だな、まだ一限目どころかホームルームも始まっていないのに。

普段であれば徹夜でゲームをして二限目ぐらいから堂々と登校しているのを考えれば、明日は大雨かもな。ほら、珍しいことをすると雨が降るって言うだろ。


「真面目な話……ではないかな? ねぇ、幹彦みきひこ君はこの学校で友達と呼べる人はどれだけ居る?」


「んー、友達かぁ。うたちんと音夢梨ねむりと……あとは男子全員だな。男子とは多分全員と話した気がする。あ、もちろんえいも友達な!」


流石は底抜けの根明。やっぱり男は全員友達って言ったか、その明るさとコミニケーション能力は見習わないといけないな。仕事をするようになったら大勢の人と会話をする必要があるのだろうと考えたら今から頭が痛くなる。

家事は全部するから瑠織るおさんのヒモになりたい……。


「……小牧こまきは友達……多い。私達は少ない……別にそれだけの話……そうそう、今日の放課後、暇か?」


「僕は今日も暇だよ。家に帰っても本を読むだけだしね」


「俺も暇だな。今日は何して遊ぶ?」


音夢梨ねむりが話題を変えたので今日の放課後についての話になる。全員が大丈夫なら瑠織るおさんを入れて五人で遊んでみたいが、どうなるだろうか。

まだ瑠織るおさんに対して何も言っていないので俺達だけで話を進めるわけにもいかないんだけど。


「俺の友達一人混ぜて五人で遊びたいなって思ってさ。一組の春宮はるみやさんって人なんだけど」


「あぁ、その人なら知ってるよ。生徒会の人だよね。僕はかまわないよ」


なんだ、えい瑠織るおさんの事を知っていたのか。

確かに生徒会に入っているって聞いた気がする、書記だったかな。中学の時にサボり過ぎて同じクラスの生徒会の女子に怒られてからというもの生徒会という存在が嫌いだけど、瑠織るおさんが居るなら俺も入れば良かった。


いや、やっぱり無理か。二年生とか三年生と話をしたりするのは嫌だなぁ。


「……聞いたことのある名前……かも……一緒に遊ぼう」


「俺は知らないなぁ、でもうたちんの友達なんだろ。じゃあ俺も歓迎だぜ」


三人からの了承を得られたので残りは瑠織るおさんだ。もうすぐホームルームが始まるので一組まで向かう時間はないが、昼休みにでも声をかけに行こうか。

いきなり知らない三人と遊ぶとなったら緊張しないだろうか、少し心配だな。嫌なら断ってくれて大丈夫って伝えないといけない。


どうすれば緊張しないように誘えるかと考えながら午前中の授業を受ける。途中で何度か先生に質問をされたが後ろの席のえいが小声で答えを教えてくれたので、そのまま発表して難を逃れた。


気がつくと昼休みになっていた。午前の授業を全て犠牲にして考えに考え抜いた末に上手い誘い方は思い浮かばず、俺の友達も入れて一緒に遊ばないかと伝えてみる。もちろん嫌なら大丈夫という言葉も添えた。


うたさんのお友達、ですか……? 誘ってくださり嬉しいです。皆さんにご迷惑でないのでしたら、是非とも遊んでみたいです!」


満面の笑みで快諾してくれた。とても嬉しい、これで五人で遊べることになった。どこで何をするかというと全然決まっていないが、それはまた皆で決めればいいだろう。

学校の近くには大きい公園もあるし、お金をかけずに遊ぶ方法はいくらでもある。


放課後になったら俺たちの教室に来て欲しいと伝え、昼休みが終わると午後の二時間の授業は寝て過ごして放課後に向けて体力を温存する。


そして放課後。部活をしている生徒は急いで教室から出て行き、少しすると瑠織るおさんが扉から顔を出して中の様子を伺っているのが見えた。


「あっ来てくれたんですね瑠織るおさん。こっちですよ」


「お、お、お邪魔します……! 初めまして、一組の春宮はるみや瑠織るおです。よ、よろしくお願いします!」


ガチガチに緊張している姿を見ると微笑ましい気持ちになるが、逆の立場なら俺も瑠織るおさんの友達を前にしたら緊張して喋れなくなりそうなのでお互い様だろう。


「俺は小牧こまき幹彦みきひこ。同級生なんだからタメ口で行こうぜ、よろしく!」


「僕は倉持くらもちえいだよ。よろしくね、呼び方はなんでもいいよ」


「……白尾しらお音夢梨ねむり……よろしく」


三人とそれぞれ挨拶をして他愛ない話を少しした後にどこに行くのかを決め始める。時刻は十六時過ぎで天気は快晴、夜も雨の心配はない。音夢梨ねむりは門限があるが家は近いし、学校周辺で遊ぶのであれば特に気にしなくても大丈夫だ。


「そうですね……お天気が良いので、私がよく行く見晴らしのいい場所はどうでしょうか? 少しだけ歩くのですが……」


「お、いいなそれ。行こうぜ!」


幹彦みきひこが一番に賛成し、俺達も反対する理由はないので瑠織るおさんの話す場所に行くことになった。一体どんな場所なのか楽しみだ。

それぞれ荷物を持ち、靴を履き替えて校舎を後にする。楽しい放課後の始まりだ!


END


―――――


・おまけ

登場人物紹介


小牧こまき幹彦みきひこ

性別:男性

学年:一学年

誕生日:八月三十一日

好きなもの:女の子 肉

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