3話:仲良し四人、ラーメン屋さんへ
縦原高校は各学年が六クラスずつに別れており、一つのクラスに三十人の生徒が振り分けられている。つまり同級生は最大で百七十九人という計算になる。
同級生全員と友達になることは困難だろうし、そもそも不必要に友達を増やしたいとも思わないが、同級生の中で友達と呼べる人間を数えると三人だった。
学校という小さなコミュニティの中で形成される友達グループは、基本的に自分と同じようなタイプの人間同士になりやすいと聞く。
しかし俺と三人の友達はそれぞれにタイプが違いすぎるような気がした。
「お前らってラーメンは何派? 俺は味噌一択!」
一人目は
明るく誰とでも会話が出来る性格なので男子の友達は多いが、その反面あまりにも自らの欲求に対して素直すぎるために女子の友達は少ない。
具体的に表現すればエロ坊主だ。俺も一応は女の端くれとして、お前は三回ぐらい瀕死になればいいのにと思う時はある。
だが体調を崩した俺に付き添ってわざわざ電車に乗って送ってくれたり、食費が少ない俺を心配して自分の弁当を毎日わけてくれるので、良い奴なのは間違いない。友達の一人だ。
「僕は醤油派かなぁ、濃さが丁度いいって思うよ」
二人目は
普段はあまり喋らないけど気を許した相手の前では割と喋るタイプで、つかみどころのないマイペースな性格。
天気が良い日は屋上にいることが多く、景色を見ながらコーヒーを飲んでいるところを何度か見たことがある。
独特の世界観を持っており周りに溶け込むのが苦手らしいが、俺達とは上手く付き合えている。友達の一人だ。
「私は……塩派。薄味が良い……鶏塩とかが好き」
最後の三人目は
頭の上から毛布を被った謎の女子高生で、疲れることが嫌いでダラダラしたり寝ることが好き。また感情があまり表に出ないためか無表情でいることが多く、何を考えているのかが一切分からない。
しかし話をしていると割とノリがよかったり優しかったりして、見た目とは少し違う印象を受ける。友達の一人だ。
「バラバラすぎるだろ。俺は豚骨しか認めない」
そして俺は俺で男の格好をしている豚骨派の女だ。
一番謎だな、まぁ先生以外は俺を男と思っているし、俺は女でいることが嫌いなので男として過ごすのが楽しくて仕方ない。
そういえば別のクラスにいる
気になるけど直接聞けたりはしないよなぁ。
「マジかよ……学校終わったら皆でラーメン行こうぜって言おうと思ったのに、全員好みが違うじゃんかよ……」
「そうだねぇ。四種類のラーメンを置いてるお店なんて学校の近くでは聞いたことないし、無理かもね」
やれやれ仕方ない奴らだ。それなら全員黙って豚骨を食べに行けばいいだろうが。そして豚骨派になれ。
……ってか俺は金ないからラーメンなんて行けるわけねぇだろ。
「そっかー残念だな。バイト代が入ったから
「安心してくれ、俺は先祖代々由緒正しい味噌派だぜ」
なんて良い男なんだ
隣から「……
「じゃあ
「……確かに私も……塩以外はあまり食べない。味噌、気になる……」
「おっマジか。じゃあ行こうぜ! 一番美味しい店に連れてってやるよ!」
本音を言えば今すぐにでも行きたいが、残念ながらまだ授業が残っている。ラーメンのことを考えて時間を潰していると気がつけばチャイムが鳴っていた。ホームルームを終えて放課後の到来だ。
「なぁ
「別にお礼求めて奢るわけじゃねぇよ?
……
あぁもう、褒められ慣れていないんだよ私は。……いや、俺は。
「……分かる。食事中の
「だよな。尻尾ブンブン振ってるような気がするもんな」
「確かにそうだね。この前に飴をあげた時も幸せそうにずっと舐めてた気がするよ」
「うっ……うるせぇよお前ら!!」
走って帰りたくなるほど恥ずかしかったが、別に悪口を言われているわけではないので不思議な気分だ。食べ方が綺麗なんて言われたことないけど、そういう部分は婆ちゃんに教えて貰って身についたのだろうか。
そんな話をしながら少し歩くと小さめのラーメン屋さんにたどり着いた。外観は古い雰囲気だが店内は綺麗に掃除されている。店主のお爺さんと
「まぁそんな感じで俺の一番好きなラーメン屋さんに行くことになったからさ、おっちゃんの店に来たわけよ。味噌ラーメン四つで!」
注文を待っている間に
「……いい匂い。……薄味が好きだから……匂いが濃い時点で、すごく新鮮……」
「僕チャーシュー大好きなんだよね。そんなにオススメされたらお腹空くなぁ」
「いやぁガチで美味いんだぜ。チャーシューだけ買いたいレベルだって。でもラーメンも美味いんだよ……!」
美味しそうな匂いが漂っている上に
しばらく耐えていると味噌ラーメンが四つ、そして餃子も四皿運ばれてきた。ん、餃子なんて頼んでたか?
「おっちゃん、俺餃子頼んだっけ?」
「いつも来てくれる礼だ! 山ほど食えよ育ち盛り共!」
ガハハと笑いながら店主のお爺さんは米も運んでくる。これだけの量を食べれるかな……いや、大量のカロリーを摂取できる良い機会だ。絶対に食べきってやるぞ。
まずはオススメされた通りにチャーシューを食べてみる。
「こ、これは……!」
まず箸で掴んだ時点で分かる重さ、分厚さ。どう見ても噛みごたえ十分といった肉の塊だ。
一口食べただけでスープの味と肉の味がいっぱいに広がる。脂身が多いが不思議と食べやすく、食べている傍から次を食べたくなる。箸が止まらないとは今のような状態を指すのだろう。
「美味しい……!」
「……美味しい。……帰ったらお姉ちゃんにも……オススメする……」
「そうだろ、美味いだろ! おっちゃん今日も美味いぜー!」
店の奥から「ありがとうよ!」とお爺さんの返答が聞こえてくるが、俺は
気がついたらラーメンも餃子も食べきっていたし、今からスープに米を入れようとしている。食が細そうな
会計の時は
「いやぁ〜ラーメンの後のアイスって最高だな!」
「……分かる。口が……スッキリする……」
「そうだねぇ。それにしても本当に美味しかったねぇ」
一人暮らしをしてるのは俺だけだし、金がないのは皆知ってる上で奢ってくれるのだから本当にありがたい話だが、やはり俺としては申し訳ない気持ちが強い。
「なぁ、あのさ……次の休みにさぁ」
だから少しでもお礼がしたい。
今までだって掃除当番を代わったりしてきたが、それだけでは返しきれているとは思えない。じゃあ俺に出来る最大限のお礼……あ、そうだ。
「モヤシ料理でよかったら……その、いつでも作れるからさ。次の休みに食べに来なよ」
料理だ。料理は得意だし好きだ。
材料の大半がモヤシなのは申し訳ないけど、今まで色々と食べさせてもらったから俺もなにか食べさせてあげてお礼をしたい。
「おー
「楽しみだね。じゃあ僕は飲み物を買っていくよ」
「ん……じゃあ私は……お菓子、買っていく……楽しみにしてる」
モヤシ料理なんて、と思う気持ちは少しあったが三人とも受け入れてくれた。
……なんて、その時は思っていたんだ。
まさかあんなことになるなんて、その時は思わなかったんだ。
「
次の日、担任から補習のお知らせが来た。
まったく心当たりがない……だって全員、まともに授業を受けていないだけなのに……。
END
―――――
・おまけ
登場人物紹介
性別:女性
学年:一学年
誕生日:十二月十二日
好きなもの:眠ること 姉
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