第2話 逆転
「なぁ、そろそろ教えてくれないか?一体何を企んでいるんだ?」
突然、隣を歩く彼が話しかけてきた。
「あら、何かしら?」
「とぼけるなって。君の目的は何なんだ?」
どうやら彼は納得していないようだ。
それも当然のことか。
彼は私の指示通りに動いているだけで、私が何をしているのかは知らないのだから。
だけど、私は彼に真実を話すつもりはない。
そもそも話そんなことよりも、あなたこそ私に隠し事をしているんじゃなくて?」
私は質問で返すことで話を逸らす。
「……どういうことだ?」
彼の声色が変わる。
「言葉通りの意味よ。あなたが何者かが気になるって言っているの」
私は彼の反応を見ながら続ける。あなた、本当に人間なのかしらね」
「…………」
彼は黙ったままだった。
私はそれを無視して続ける。
「昨日のことよ。私の知り合いから聞いたんだけど、最近この辺りの街に正体不明の一団が現れたらしいわ。なんでも、全員がフード付きのローブを着ていて、素顔を見た者は誰もいないそうよ。しかも、その集団は魔法を使って人を襲うそうよ」
「……」
「ねぇ、これってあなたたちの仕業じゃないの?」
「……」
「だんまりかしら?まあいいわ。でも、あなたたちのことを見過ごすことは出来ないわ」
「……それで?」
「あなたたちが私たちを狙っているのなら、ここで倒させてもらうわ!」
「……」
「さあ、覚悟しなさい!」
「ふぅー」
僕は深呼吸をして心を落ち着かせる。
目の前にいる女の子はどう見ても子供にしか見えない。
だけど、彼女が放つオーラのようなものは明らかに普通ではない。
おそらく、彼女は強い。
そうでなければこんなところまで来れるはずがない。
それに彼女の言う通り、ここは僕が守るべき場所だ。
だからこそ、絶対に負けるわけにはいかない! そう決意して剣を構える。
「いいぜ!かかってこい!!」
「言われなくても!!」
僕の挑発に少女は乗ってきた。
よし!まずは相手の出方を見るぞ!
「はああっ!!」
次の瞬間、少女の姿が見えなくなった。
いや、正確には消えたように見えたのだ。
(――速いっ!)
「くっ!」
咄嵯に横に跳んで回避する。
するとさっきまで立っていた場所に少女がいた。
「へぇ~今のを避けるなんてやるじゃん!」
嬉しそうな表情を浮かべながら少女は再び今度は逃がさないわよっ!」
そう言って再び姿が消える。
(――またかっ!?)
しかし、今度は見えた。
なぜなら、彼女が現れる場所は決まっているからだ。
それは足元だ。
つまり、地面だ。
そして、そこには必ず影が出来る。
だから、その場所さえ分かっていれば攻撃を防ぐことは可能だ。
それにしてもなんという速さだ。まるで光の速度だ。
だが、それでも避けられないほどではない。
(――次こそは受け止めてみせる!!)
心の中で叫ぶと同時に少女が再び姿を現した。
今度も真下だ。
僕はタイミングを合わせて足を振り上げる。
ガキンッ!! 激しい音と共に火花が散り、互いの武器がぶつかり合う。
そして、鍔迫り合いのような状態になりながらも、互いに睨み合った。
一瞬の間があり、その後すぐに二人は距離を取った。
そして、仕切り直しとばかりに再び戦闘が始まる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 戦いが始まってからどれくらい経っただろうか? 実際にはそれほど時間は経っていないのかもしれない。
だけど、私にとっては数時間にも思えるような長い時間だった。
最初は何とか攻撃を防いでいた彼だったが、徐々に動きが悪くなり、今では避けるので精一杯といった様子だ。
私は焦っていた。このままでは勝てる気がしない。
そう思った私はある作戦に出ることにした。
私は彼の懐に入ると、そのまま体当たりをした。
彼は突然の攻撃に対処出来ずに吹き飛ばされてしまう。
私はすかさず追い打ちをかけるべく、彼の元へ向かう。
これで決めるわよ! 私は剣を構え、彼に向かって走り出した。
その時だった。
突如として視界の端から黒い何かが現れ、私を吹き飛ばした。
いったい何が起こったのか分からなかった。
ただ一つ分かるのは、私が地面に倒れているということだ起き上がろうとするも体が動かない。
「う、嘘……どうして……」
かろうじて動く口を動かして呟いた。
「悪いな。お前の勝ちだよ」
彼がこちらを見下ろしていた。
「な……んで……?」
私は絞り出すように声を出した。
「簡単な話さ。俺の能力は『主人公補正』。どんな状況でも主人公が勝つようになっているんだよ。だから、俺は負けないんだ。まぁ、今回は相手が悪かったけどな。じゃあ、そろそろ終わりにするぜ」
彼はそう言うと、剣を構えた。
私は恐怖で目を瞑った。
「安心しろ。。殺しはしねぇよ」
彼の言葉を聞いて目を開ける。
そこには既に彼の姿はなかった。
代わりに私の目の前には大きな熊が横たわっている。
「えっ?」
私は訳が分からないまま立ち上がって辺りをキョロキョロと見回す。
どうやら、
夢を見ていたみたいね」
ホッとしたせいか急にお腹が減ってきたので、私はその場を離れることにしたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふぅー危なかった。まさかあんなところで出会うとは思わなかった」
僕は安堵のため息をつく。
その頃ガルティア王国では冥界から伝説の龍、「ハチダイリュウオウ」、「シカイリュウオウ」、「クリカラリュウオウ」、「シンリュウオウ」の4体が現れた。
4体の竜王は世界中に散らばり、それぞれ別の街を破壊し始めた。
そして、その混乱に乗じて、1人の男が現れた。
その男は自らを魔王と名乗り、世界征服を宣言した。
しかし、その男が魔王を名乗るには理由があった。
実はこの世界にはまだ5人目の魔王が存在していたのだ。
その存在を知る者はほんの一握りしかおらず、世間には公表されていない。だが、ある時を境に各地で異変が起こり始める。
それは魔界と呼ばれる異世界の存在が確認されたことだった。
5人目の魔王の名はルキア。彼女は人間界に現れると、次々と魔族を生み出していった。
そして、生み出された魔族は人を襲うようになった。
さらに彼女は人間と契約を交わすことで、より強力な力を与えることができることを発見した。
こうして、人知れず世界は崩壊への一歩を踏み出していくことになる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 時は少し遡り、ここはとある国にある城の中。
玉座に腰掛ける一人の女がいた。彼女の名はルナリア・クレース。
かつて、勇者パーティーの一員として活躍したこともあるほどの実力者である。
そんな彼女がなぜこんなところにいるかというと、それは少し前に遡る。
ある日のこと、突然、彼女の前に一人の少女が現れる。
少女の名前はアメリア。
見た目はとても可愛らしいのだが、なぜか全身が血まみれの状態だ。
少女が口を開く。
しかし、少女の声が聞こえることはなかった。
なぜなら、少女の喉は潰れていて、喋ることができなかったからだ。
少女は筆談によって会話をすることに決めたようだ。
"あなたは誰ですか?" 少女は紙に書き込んで見せる。
すると、それを覗き込むようにして見た後、すぐに自分の名前を書いて見せた。
少女の名前を見て、驚きを隠せない様子だ。
そして、少女もまた驚いているようだった。
お互いがお互いに見つめ合っていると、不意に扉が開いた。
入ってきたのはこの国の王だ。
王は入ってくるなり、二人を見るなり、すぐに駆け寄ってきた。
そして、泣きながら抱きしめた。
しばらく時間が経ち、落ち着いた頃を見計らい、王が口を開いた。
なんでも、王の一人娘のステラ姫が亡くなったという。
死因は不明で、何者かによる暗殺の可能性が高いという。
そこで、犯人探しが始まった。
まずは、メイドたち全員から話を聞こう。怪しい人物を見た者がいるかもしれない」
そう言って、一人ひとりに質問を始めた。
だが、誰も何も知らなかった。
ただ一人を除いて。
「―――――」
「ん? 何か言ったか?」
「――――――――
「なんだって?」
「――」
「よく聞こえないぞ」
「――」
「もっと大きな声で言ってくれ!」
「――」
「くそっ! 全然聞き取れない! 一体なんと言っているんだ!?」
「――」
「……いや、待てよ。もしかしたら……」
「――」
「……いや、やはりダメだ。そんなことあり得ない。……いや、でも……」
「――」
「そうだ、これはきっと夢に違いない。……よし、頬っぺたをつねれば目が覚めるはずだ「――」
「……痛いな。ということは夢じゃないのか……。まさか、本当に……?」
「――」
「分かった、信じよう。……で、なんて言っているんだ?」
「――」
「なにぃ!? そいつは何者だ?」
「――」
なになに、名前はアルスランだと?……おい、そいつはどこに住んでいるんだ?」
「――」
「そうなのか。ありがとう、助かったよ」
「――」
「あぁ、また会おう」
「――」
「あぁ、それじゃあ」
「――」
「じゃあね」………………
「あぁ、楽しかった」
「さすがに、もう限界かな」
「でも、もう少しだけ」
「うん」
「わかった」
「あとちょっとだけだよ」
「うん「ごめんね」
「いいの?」
「ありがと」
「がんばる」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
その瞬間、すべてが消えた。
あるのはただ真っ白な空間だけだった。
そこには俺しかいなかった。
俺はいったいどうしたのだろう。どうしてここにいるのだろうか。
思い出せない。俺は何者で、ここはどこか。
ただわかる俺は立ち上がり歩き出した。どこに行けばいいかわからなかったが、それでも歩くしかなかった。
どれくらい歩いたのだろうか。
気がつくと目の前には巨大な塔があった。
それはまるで天まで届くかのように高く聳え立っていた。
その高さに圧倒されながらも、なぜかその塔に入らなければならない気がして、中へと入っていった。
中は螺旋階段になっており、上へ登っていくごとにどんどん暗くなっていった。
やがて頂上に着いたとき、そこは外ではなく、薄暗い部屋になっていた。
部屋の中央にある台座の上には、一冊の本が置かれていた。そして、それに呼応するかのように、本が輝き始めた。
眩しい光が収まった後、そこにいたのは一人の少女だった。
少女はこちらを見ると、微笑みを浮かべながら話しかけてきた。
少女は自らを神と名乗った。
ここは神の住む世界だという。
なぜ自分はここに来たのか。それはわからないらしい。
「君が持っている本を私に見せてくれないかしら」
言われるがままに持っていた本を手渡す。
すると、表紙をめくった次のページに文字が浮かび上がってきた。
【この本を読める者が現れた時、私は再び目覚めるであろう】
そう書かれていた。
「そう、そうなの。あなたは選ばれたのね」
少女はそう言うと、少し寂しそうにしてから、「ねぇ、少し話をしない?」と言ってきた。
断る理由もなく
ああ、構わないよ」と答えた。
少女は嬉しそうに笑っていた。それからしばらく二人で話していたのだが、突然少女が泣き出してしまったのだ。
「……ぐずっ……うぅ……ごめんなさい……急に泣いたりなんかして……」
彼女は涙を拭いながら、あの……聞いてくれるかしら……」と言い、自分のことを語りはじめた。
少女の名前はアイシア。
この世界を創ったものの一人だと言う。
そして、彼女はとても悲しく辛い過去を持っていた。
彼女の生まれた星は地球と呼ばれていたらしい。
そして、そこでは皆幸せに暮らしていたのだという。
暗殺王子 不動のねこ @KUGAKOHAKU0
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