暗殺王子
不動のねこ
第1話 暗殺者
赤き月の廻るころ、ガルティア王国では大規模な反乱が起こっていた。
ガルティア王を打倒するため、貴族たちが手を結び挙兵したのだ。
ガルティア王は軍を組織し鎮圧に当たるが、反乱軍も精鋭ぞろいであり苦戦を強いられる。
しかし、反乱軍の首魁である元宰相が討ち取られたことで戦況は一変する。
その後、国王軍は勢いを増し、反乱を鎮圧した。
そしてその戦いにおいて、英雄と呼ばれた男が居た。
彼の名はアベル・レヴァンタ。
レヴァンタ男爵家の長男にして、王国の第一王子でもある。
この物語は、そんな彼が英雄として称えられる前の物語――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――これは、とある少年の物語だ。
少年の名前はアリシア・クリステラ。
平民の出身でありながら魔法の才能を認められ、学園に入学を許された優秀な生徒だった。
だが、入学して早々に問題を起こしてしまう。
理由は些細なことだった
のだが、その態度に激怒した学園長から停学を言い渡されてしまったのだ。
そして謹慎期間が明けて数日後のこと。
学園長はアリシアを呼び出すと、あることを告げた。
それは――
――お前を退学処分とする! そう言い放ったのだ。
突然の宣告に驚くアリシアだったが、さらに追い打ちをかけるように学園長が言葉を続ける。
――今すぐに荷物をまとめて出て行け! これ以上ここに居るようなら拘束し、衛兵に引き渡すことになるぞ? 有無を言わせぬ口調で凄まれてしまい、アリシアは何も言えなくなってしまう。
こうしてアリシアは、半ば強制的に学園を追い出されてしまったのであった……。
「うーん、これからどうしようかなぁ」
学園を出たあと、私は街の中をあてもなく彷徨っていた。
正直なところ行く当てなどない。
お金だって持っていないし、頼れる人も……あれ?」
ふいにあることに気付き足を止める。
辺りを見回すとそこは見覚えのある場所だった。
「ここって……」
間違いない。ここは私が住んでいたスラム街だ。
どうしてこんなところに来ちゃったんだろう……? 不思議に思いながらもとりあえず歩いていくことにした
……!」
しばらく歩いていると誰かの声が聞こえてきた。
何だろうと思い声の方へと向かってみることにする。
するとそこには一人の男の人が立っていた。
「おい、そいつを捕まえてくれ!!」
男の人は大きな声で叫んでいるようだった。
よく見ると、何か小さな生き物を追いかけているようだじっと見つめると目が合ってしまった。
すると、追いかけられていた小さな生き物は一目散に逃げていってしまう。
「ああっ!?逃げられた!!くっそ~!!」
悔しそうな表情を浮かべながらこちらに向かってくる男の人。
「おっと、ごめんよお嬢ちゃん」
そのまますれ違おうとした瞬間、急に手を掴まれた。
驚いて振り返ろうとするも、すごい力で握られていて振りほどけない。
「痛いっ!」
思わず叫ぶとようやく手が離された。
恐る恐る顔を上げると、さっきまで笑顔だったはずの男の人の目はまるで別人のように冷たくなっていた。
そして口を開くとこう言った。
――君には死んでもらうよ そう言うと同時に私の胸ぐらを掴み上げてくる。
あまりの力の強さに息苦しくなり、必死に抵抗するが全く意味がない。
やがて意識を失いそうになったその時――
(……………さん!姉御!!」
聞き慣れた声と共に身体を引っ張られる感覚があった。
直後、ドサッという音とともに地面に放り出される。
「ゲホッゴホゴホッ!ハァッ……ハッ……」
咳き込みながらも呼吸を整えようとする。……一体何が起こった大丈夫ですか姉御?」
心配そうに見下ろしているのは弟のダリアだった。
「うん、何とかね……ところで今は何時かしら?」
ゆっくりと立ち上がりながら尋ねると、弟は懐から時計を取り出して見せてくれた。
「今は夜の11時半です」
それを聞いて私はため息をつく。
今日も寝不足確定だわ……。
―――私がこの世界に転生したのは8歳の時のことだった。
前世の記憶を思い出したのはちょうど誕生日を迎えた日のことである。
それまで私は、ごく普通のどこにでも居る女の子として生活していた。
それがある日突然、頭の中に見知らぬ記憶が流れ込んできたのだ。
そのせいで数日間熱を出して寝込んでしまったのだが、それも今ではいい思い出だ。
そしてその日から、私は自分の置かれている状況を理解したのだった。
この世界はかつて自分がプレイしたことのある乙女ゲームの世界なのだと。
ただ一つ、本来ならヒロインであるはずの自分ではなく、悪役令嬢として生まれ変わっていたことを除いて――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――翌日、私は早速行動を開始した。
まずは情報を集めることから始めることにしたのだ。
そして集めた情報を整理した結果、この世界で生きていくためには力が必要だということに気付いたのだった。
そして次に考えたのは自分の力を鍛えることだった。
そこで目を付けたのが学園に通うことだった。
学園では様々なことを学べるし、人脈を広げることも出来るからだ。
それに学園に通えばお金も稼げるから一石二鳥だと思ったのだ。
だがしかし、ここで一つの問題が浮上した。まさか、入学金が必要なんて……」
そう、学園に入学するには多額の費用がかかるのだ。
平民出身の私にとっては大金を支払わなければならない。
だからといって諦めるわけにもいかない。
どうにかして費用を工面しようと考えたのだが、なかなか良い案が浮かばなかった。
そんな時、父に学園に通いたいと言ったところ、あっさりと了承してくれたのだ。
そして、とんでもない条件を突き付けてきたのだった。
それは、学園に通っている間は父の商会で働かないこと、そして卒業するまでに成果を出すこと、の二つであった。
つまり、自分で学費を稼ぎながら学園を卒業しろと言っているのと同じことだった。
いくらなんでもそれは無理があるのではないかと思っていたのだが、父は本気のようで一切譲歩してくれなかった。
結局、学園に入学できたものの、私は途方に暮れていたのだった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――それから数日後、私はある人に声を掛けられた。
それが今の私の仕事仲間であり、家族でもある弟だ。
最初は仕事の話を持ちかけられただけだったが、いつしか一緒に仕事をするようになっていた。
弟とは歳が離れていることもあり、実の弟というよりはむしろ息子のような存在だ。
だけど彼はとても優秀だし、私のことを大切に思ってくれていることもよく分かる。
いつも私のことを助けてくれるし本当に自慢の息子だと思う。
そんなある日のこと、私は彼にお願いをした。
私の大切な人を助けて欲しいと――
その人は私の恩人であり、尊敬できる人物でもあり、同時に愛している人でもあった。
だからこそ彼だけはどうしても救いたかった。
「わかりました。姉さんの頼みなら引き受けますよ」
そう言って微笑む彼の笑顔はとても頼もしくて安心感を与えてくれた。
「ありがとう。あなたならきっと助け出してくれるって信じているわ」
「はい!任せてください!」
力強く返事をする弟に、私は心の底から「頼りにしているわ!」
と言って笑ったのだった。
「それで、姉さんはどうするつもりなんですか?」
弟が尋ねてくるが、私は考えがまとまっていなかった。
というのも弟に相談したところ、「とりあえず相手の目的を探るべきですね。相手が何を望んでいるのか分かればこちらも動きやすいはずです」と言われたからだ。
そして私は弟のアドバイスに従い、ターゲットに接触してみることにした。
そうして出会ったのが、攻略対象の一人であるダリア・タンジーだったのだ。
弟の言った通り、接触してみると彼はすぐにこちらの目的を見抜いてきた。
さすが我が弟だ。
そう思った矢先、急に胸ぐらを掴み上げられてしまったのだ。
「痛いっ!離しなさい!!」
思わず叫んでしまう。
すると、男は急に手を離すとこう言ってきた。
「ああっ!?ごめんよお嬢ちゃん!」
そしてそのままその時だった。
男が一瞬ニヤリと口元を歪めたように見えたのだ。
(――っ!!)
直感的に危険を感じた私は咄嵯に弟の手を掴むと、そのまま走り出した。
その直後、後ろから大きな爆発音が聞こえたのだった。
(危ないところだったわ……)
男から離れ物陰に隠れると、ようやく私は安堵のため息をつくことが出来た。
あの時、弟が止めてくれなければ今頃は死んでいたかもしれない。
改めて弟に感謝しなければ。
だが、まだ危機が去ったわけではない。
弟も私も今の状況では満足に戦えない。
それに相手の目的は分からないままだ。
私はこれからの行動について考える。
そしてしばらく悩んだ結果、私はある決断を下したのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――翌日、私はダリアを連れて街へと繰り出した。
目的は情報収集と食料の確保である昨日、私は考えた末にまずは情報を集めることにした。
そして集めた情報を元に対策を考えることにしたのだ。
まずは情報を集めようと考えたのは、相手に情報を与えることなく行動を起こすためだ。
私が知っている情報は限られているし、その情報だってどこまで信用出来るか分かったものではないだから、なるべくリスクを減らすためにも慎重に動く必要があった。
そこで、ダリアの出番というわけだ。
彼の能力があれば大抵の情報はすぐに集めることが出来るし、何より顔が広い。
さらに言えば、いざとなった時に私を守ることも容易だろう。
そう考えた上での判断だもちろん弟には反対された。
それはそうだ。
いくら何でも弟を置いていくわけにはいかない。
だから、私は弟と一緒に行くことを条件に彼を連れて行くことを決めたのだ。
弟には申し訳ないが、今は私一人で行動するわけにはいかない。
それに彼ならば上手くやってくれるはずだ。では、早速行きましょう」
こうして私たちは街の中を歩き始めたのだった。
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