第16話 価値観の崩落
「えっ、僕らの漫才に苦情ですか?」
いつも通り単独ライブを終えた後、楽屋で菅原は張本に告げた。
「そうだ」
「菅原さん!嘘言ってまた張本いびらないであげて下さいよ……」
平谷が菅原と張本の間に入り、菅原との間合いを詰める。
「嘘じゃないぞ。平谷」
距離を離す平谷だったが、菅原の目は本気だった。
「実際にクレームは入ってて、猫アレルギーをイジったのがどうの……みたいな」
張本は顔を青くして震えている。
「その人は気にしていたんだろうな。猫アレルギー持ってることを。」
「ぼ、僕達が人を傷つけた……?」
ラブアンドピースがテレビに出始めて漫才をするようになってから、ちょくちょく苦情が入っているというのを噂程度に聞いていたが、本当に入っていたとは。
そしてコンビにまでその声が届いたという事はよっぽど批判の声が肥大化しているのだろうか。
「お前達は人を傷つけないお笑いをするんじゃなかったのか?」
菅原は嫌な笑みを浮かべている。
───ざまあみろ。お笑いはやっぱり人を傷つけてナンボだ。
とでも言いたげな表情だ。
「い、今すぐネタを書き直します!誰も傷つけないために!」
張本はその場で自分のリュックからボロボロの使い込んだノートと100均で10本入りのペンのうち1本を出し、ネタを書き直し始めた。
「張本……」
平谷は張本のネタについては全く面白いと思ったことは無いが、お笑いに対する情熱は本物だと思っており、取り組む姿勢は尊敬していた。
「せいぜい頑張れクズ
菅原は小さく吐き捨てるように言った。
その時、平谷の中で何かが弾け飛んだ。
「ガボダッッッ!!!」
次の瞬間、菅原の体は宙に浮いていた。
ドサッ!!
「いい加減にしろよ菅原!」
平谷が菅原を殴り飛ばしたのだ。
「確かに張本のネタは幼稚園児の綺麗事で何が面白いのか俺にもさっぱり分からねぇよ!」
菅原は頬をおさえて唖然としながら平谷を見ている。
「だけどな!張本はお笑いに本気だ!それは!それだけは分かる!!それをバカにするのはもう我慢できねえ!」
「平谷さん……!」
張本も驚いている。
「でも暴力はダメです!」
平谷は自分の拳を見て、やってしまった、という表情を浮べる。
「あっ、そういえば今書き終わりました」
「はやっ!」
菅原と平谷は同時に叫んだ。
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