第14話 なんか窮屈じゃない?
平谷と張本はネタの打ち合わせで、スターバックスに来ていた。
入店時は15時過ぎだったので、そこまで混んではいない。
平谷はバニラフラペチーノ。張本も普段スターバックスなんて小洒落た店には来ず、何が美味しいのかも分からないため平谷と同じバニラフラペチーノを頼んだ。
値段を見て張本は驚愕したが、平谷が奢ってくれた。
「ご馳走様です〜……というかコーヒーもどき1杯でこんな値段するんですね」
張本が紙ストローですすり始める。
「円安の影響とかもあるんだろうけど、前からこんなもんだよ?」
話はネタ関連のことになっていく。
張本が台本を書いているので、話の主導権は張本が基本的に握っている。
「平谷さんの意見はなんか極端ですよね。Twitterでよく見る右翼みたいですよホント」
「むむむ……今の発言バンドだったら即解散レベルの発言だぞ張本くん」
だが平谷は自分の感性が世間に受け入れられないということをこれまでの人生経験で分かっているため張本に寄生しているという実感がありながら、ダラダラ現状維持をしてしまっている。
平谷はネタを書いているのは張本なのに、自分の方がテレビに呼ばれて給料も張本の倍以上貰っている事に罪悪感を感じていた。
そして同時に嫉妬というか、張本に対してあまりいい感情は抱けていなかった。
『なんでこんなネタがウケてんだ?』
『張本の感性は間違っているハズなのに、それを評価する世間もおかしいだろ!』
何度自分のTwitterに書き込もうとしたか分からない。
が、そんな事をツイートすればたちまち大炎上確定だろう。そして張本との関係も険悪になる。
やりたい事と給料や立場を天秤にかけて、結局給料や立場を選んでしまっているのだ。
真の芸人になれていない自分自身にも平谷は腹が立っていた。
「張本くんはゴジョウ政賢って知ってるか?俺が最も尊敬してた芸人なんだけど」
「え、あの恋愛番組の司会みたいなのやってる人当たりのいいおじいちゃんですか?」
「そう!昔あんなんじゃなかったんだけどね。もっと尖ってた」
「芸人さんだったんだ、あの人。初耳です。しかも尖ってたなんて……想像できません」
ゴジョウ乱和時代人気だった芸人だ。
過激な芸風で、バラエティ番組に出演すれば
倫理が甘かった当時ですら狂っていると評されていたくらいだ。
「俺はさ、乱和のお笑いが大好きなんだ。あれこそお笑い。あれこそ男のあるべき姿だだと思ってるよ」
『倫理だ常識だ?そんなものはマンホールの中に捨てちまえ』
ゴジョウのいちばん有名な言葉であり、平谷が座右の銘にしている言葉だ。
「だから今の丸くなったゴジョウ嫌いなんだよなあ。ただの孫に優しいどこにでもいるおじいちゃんじゃんよ」
時代の流れは残酷だ。
平谷が物心ついた時はもう乱和は終わっていた。
「もう一度あんな時代が俺が生きてるうちに来ねえかなあ」
「僕は全く共感できないですね……」
「別にいいよ。俺もお前のネタの良さなんて分からないし──」
───分かりたくもない。
その言葉を言ったら関係が完全に壊れると瞬時に察知し、平谷は喉元にまで来ていたその言葉に全力でのどちんこブレーキをかけ、胃まで戻した。
実のところ張本も平谷の事は好きではなかった。
一時期平谷とシェアハウスをしていたのだが、平谷が日常生活で吐くブラックジョークは、かつて自分を虐めていた人間が言ってきたセリフと同じ類のものだと聞くたびに感じたからだ。
シェアハウス解消の理由は表面上で別の理由を伝えたが、本心ではブラックジョークに耐えられなくなったという理由だった。
────時代が変わるまでの辛抱だ。
お互いがそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます