コンビ視点
第13話 不都合な優しさ?
張本のバイト先は家から徒歩5分のデパート内ファストフード店だ。
日本は最近憲法が改正され、時給と合わせて労働給というものが発生する。
労働者から搾取しているのは時間だけではなく労働力もだろう、という意見が世間から多々あったからである。
張本が勤めるファストフード店は時給800円プラス労働給300円。合計1100円だ。
誹謗中傷やあおり運転、パワハラなども最近では法律がどんどん改良されて生きやすくなっているハズだった。
だが張本の貧乏生活は相変わらず続きそうだ。
物価は高くなるから給料上がってもプラマイで変わらず、レジ袋と割り箸が有料かつ、そもそもスーパーなどの店は入店するだけで入店料金がとられるようになり、最近では──────────
「パワハラ?俺が?」
「そうなんだよ。この際ハッキリ言うけど張本君ちょっと言い方がキツイのか後輩から嫌がられてるんだよね」
店長からそう告げられた張本はショックを受けると同時に困惑した。自分はバイト中後輩に対して、厳しく指導した覚えは全くない。
「なんか変な地雷踏んじゃったのかな…?」
「とにかくその子もう君に会いたくないって言ってたからさ。申し訳ないけど今後被らないようにするから」
労働の際、仕事仲間との接し方にかなり気を遣わなければならなくなった。
昨今テレビの倫理観が厳しくなったのと同じで、職場でも言動倫理が厳しくなり、特に自分より立場が低い人間に対して、暴言などをひと言でも吐くとたちまちパワハラ認定され、問題になるのだ。
張本はその日のバイトを終えた帰り道、
「店長の言い方の方がよっぽどパワハラだと思うんだけどなぁ…」
そう不機嫌になりながら呟き、家賃2万のいわく付きマンションへとぼとぼと歩いた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「っす!」
「客は神じゃないって分かってます?」
「だーらちゃんと『です』ってつけしたよ」
平谷はコンビニにいた。
今やお店のやり取りひとつとっても変わっている。
ひと昔前まで『お客様は神様だ』という精神で店員はたとえ客に理不尽なことをされても強気に出ることが出来なかった節があった。
しかし今は『客と店員は対等』という風潮になり、店員は以前とは違い、ペコペコしなくなった。
なんなら店員側の方が入店拒否という切り札を使えるため関係上、上の立場になっているような雰囲気がある。
それでもやはりマナーとして敬語は使わなければいけないという風潮は中途半端に残っており、この敬語使っている使っていないで喧嘩になるトラブルが新たに増えてしまった。
「お客さん。そんな態度とるなら売りませんよ?」
そして平谷はそのトラブルに巻き込まれている真っ只中だ。
「今ニコチン切らしてるからイライラしてんす。頼むから売ってくださいよ…!」
平谷は喫煙者で1日3箱ほど吸う、そこそこな中毒者だ。
タバコも時代がクリーンになると共に値上がりし、公共の場での喫煙スペースも激減した。
世間の風潮として今は『タバコは百害あって一利なし。吸う人間はモラルのない人間』というタバコを敵視する風潮だ。
タバコを辞められない人間は電子タバコを吸っているというのが大半なのだが、平谷はやめる気など全くない。
自分がタバコに吸われているというのも承知だ。
やっとの思いで店員からタバコをスキャンさせ、自動支払い機に現金をぶち込み、店を後にした平谷。
今すぐニコチンに飢えた体のためにタール8のラッキーストライクを摂取したいが、歩きタバコなどする訳にはいかない。仮にも芸能人だ。どこに足を引っ張ろうとする週刊誌のカメラがあるか分からない。
「はあ…」
ため息をつき、足早に高級タワーマンションへ向かう。
──時代は良い方に変わるほど窮屈になっているのでは?
そう2人は思いながら寝床についた。
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