第9話 平和の時代2

ショッピングモールで買い物をした帰り張本は好美が買ったブランド物の服やら小物やらが入った紙袋を両手に持たされていた。


元々張本はショッピングに興味が無い。好美が強引に誘うので、仕方なく来ていただけだった。


仮にショッピングに興味があったとしても、張本の稼ぎではブランド物など買えば、一気に家計が傾くだろう。


好美はアパレル関係の正社員だったので稼ぎがあり、張本が手に持っている商品も含めて好美の金で購入している。


__直樹くんもなんか欲しいものある?


そう聞かれたが、自分の収入が低く、彼女に物を買ってもらうという事があまりに惨めだっため断った。


途中ショッピングモール内のラーメン屋で食事をした際も、張本はライス小だけ食べて自分で払った。

本当は特盛ラーメンを食べたかったが、1000円ちょっとの出費でも水光熱費に響いてくるのだ。この体験をしていないなら見栄を張って彼女のラーメンごと奢れるのだが、過去に電気と水道を何度か止められており、その時の体験があまりに辛かったため、そんな大胆な行動は出来なくなっている。


夜の19時を過ぎた頃、2人で談笑しながら寒空の下を歩いていると街のビル電光掲示板が目に入った。


ちょうど平谷が出演しているドラマの予告だった。

一瞬だけだが平谷が映る。ドラマ内ではそれなりに活躍する役らしい。


好美は気を遣い

「寒いから早く帰ろうよ!」

と少し声のボリュームを上げて張本を急かす。


だが張本はスクリーンを見上げたまま動かない。


「…直樹くん?」


そして平谷が出演するドラマの予告が終わった後もスクリーンをしばらく見つめ続けてから呟く。


「平谷はさ、本当は今のお笑いが退屈でしょうがないんだよね」

「え?」

「人を傷つけないお笑い」


張本は、行こっかと言い好美に顔を向け微笑む。しかしその目に光は宿っていない。


雪が降ってきた。

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