第2話 今日もみんな仲良し
「おつかれさまでした〜」
漫才を終えバックヤードに戻ってくるふたり。周りには沢山のスタッフが群がる。ラブアンドピースは世間でも人気なので当然業界でも取り巻きはいる。
極限状態といってもいいほどの緊張から両者ともサウナ上がりのようだ。
特に平谷はふくよかな体の持ち主なのも相まって、まるでホットスナックの肉まんのように湯気が出ており、取材のため近くでカメラを構えていたカメラマンがレンズを拭いていた。
取材の内容はふたりのドキュメンタリーを撮りたいという主旨のものだ。
二の腕で汗を拭っている平谷のもとにマネージャーがタオルをもって駆け寄ってくる。
「いや〜モニターで観てて焦ったよ。平谷ナイスフォロー!さすが先輩だな!」
張本はその言葉を聞いて表情が陰り目線を斜め下に落とす。
それに気付いた平谷がすかさず、張本に向かって「杉本も頑張ってたよ!」と、気を使ってあえて大きな声で言った。
「いや張本だわ!」
バックヤードが笑いに包まれる。
バックヤード内のスタッフやカメラマンが全員笑っている中、マネージャーだけが平谷に
「別にアイツのことなんて気遣わなくていいよ。いっそ事務所内の他のピン芸人と平本チェンジしたらどうさ?」
と耳打ちする。
「張本ですやんマネージャー!そしてチェンジって、な……えっと……風俗嬢じゃないんですからさあ!」
たどたどしくツッコミを入れマネージャーをやりすごそうとするが、マネージャーの表情は変わらず、殺し屋のような顔のままだ。
「え?ああ平本じゃなかったっけアイツの名前。別に興味無いからどうでもいいけど」
騒がしいとはいえ少し大き過ぎなくらいの不自然な音量でそう言う。間違いなく張本に聞こえるように発言しているし、おそらく平本にも聞こえている。マネージャーが発言した瞬間、動きと顔がピタッと硬直したからだ。
なぜマネージャーがこんなにも張本のことだけを毛嫌いしているのか。それはもう何年も前のことになる_______
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