LOVE&Peace
りーしぇん
第1話 僕らが掲げる理想論
ギズギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャゴー!
オーオー オーオー♪
独特なリズムの出囃子が流れ、少し遅れて左右のセットから登場する2人組。
「それでは今回も笑いを取りに行くゥ!傷つけないお笑いでお馴染みィ!!ラブ!アンドピィィィス!!!」
客席から見て右の100キロ巨漢デブである平谷が蝶ネクタイを直す。結成当初、平谷は私服を着た北斗の拳のハート様そっくりなので「豚小屋」と呼ばれていたが、最近はコンビの好感度が上がっているため「ぷーちゃん」と呼ばれるようになった。
客席から見て左の中肉中背メガネの張本は緊張からか唇をペコちゃんのように舐めている。もうこの時点で客席では小さな笑いが起っている。
「優勝目指して笑いをとぉるるれれぇぇぇえー!!」
この天の声定番のセリフは格闘技でいうところのゴングだ。
張本はペコちゃん顔から一変し、真顔になっている。緊張しているため表情のコントロールがうまく出来なくなっているようだ。
「…」
少し気まずい間が空いた。
漫才はリズム感が重要なので、この間は不自然だということは素人の子供でもわかる。
張本がセリフを飛ばしてしまったのだ。
「なんか喋れよ」
平谷が張本を叩く。
ドッ!!!!
平谷のアドリブパワーが光り、ピンチがチャンスになった。
「いやー、、、最近ね。ゴミ拾いしてまして僕」
台本が張本の頭に戻ってきた。
「偉い!どこでゴミ拾ってんですか?」
平谷は内心ホッとしながら返す。平谷が今までネタを飛ばしたことは無い。
「海で拾ってます」
「おー、流れ着いたビンとか雑誌とかですかい?」
「砂拾ってます」
「一生終わらない!」
ドッ!!!
「コロコロかけてます」
「それカーペットにやるやつ!」
ドワあああっ!!
会場は大爆笑の嵐だ。
「マジコロコロ何個あっても足りませんよそれーー」
滑舌が少し悪い平谷だが、張本曰くツッコミのテンションが完璧らしい。
そんな2人の漫才は、セリフを飛ばすハプニングもあったが、大成功で終わった。
張本は思った。
今日も、傷つけずに終われた。
と。
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