彼女の一日

寄鍋一人

クマ目線

 目覚ましが鳴り、もぞもぞと布団が擦れる音と一緒に「おはよー熊五郎……」と頭上から気怠そうな女の子の声。

 彼女は仕方なさそうに布団を剥いでカーテンを開ける。


「んー……ふあ……」


 両手を高く上げて大きな欠伸をすれば、寝間着の裾もつられて上がる。綺麗なお腹が外に見えちゃいますよ、お嬢さん。


 僕の注意は彼女に届くわけもないが、一応恥じらいというのはあるようで、やば、と慌てて隠した。


 部屋の外から母親に呼ばれ適当に返事しながら、彼女はスルスルと制服に着替える。


 ベッドに横たわったままの僕からはクローゼットが見えず、音だけなのは助かった。この体では手で目を隠したり目を閉じたりはできないが、紳士としてそういう配慮は必要だろう。


 着替え終わると部屋を出て、しばらくして戻ってきたときには軽く化粧もして身支度は完璧だ。


 彼女は僕を机の上に乗せて、


「じゃ、熊五郎、学校行ってくるね」


 カバンを拾いつつ僕に手を振って出かけていった。


 いってらっしゃい、気を付けてね。もちろん、僕の声は彼女には届かない。



 さて、熊五郎という彼女のネーミングセンスは置いといて、昼間は机の上から部屋を見つめるくらいしかできないので、夕方まで時間を飛ばそう。


 帰ってきたときも律義にただいまと言う彼女は、すぐにクローゼットの前で制服を脱ぎ始める。机の上にいるときは画角的に映ってしまうので、紳士は心の中で目を瞑ろう。


 颯爽と部屋着に変わったら、僕を抱えてベッドにダイブ。そこから夕飯まではダラダラと携帯をいじったり友だちと電話をしたりして過ごす。


 お風呂から出れば、化粧水やら保湿クリームやらを顔や体に塗り、軽くストレッチなんかもして、夜のルーティンをこなしていった。


 そして僕を抱きかかえて眠るのだ。



 こうして、一人の少女の一日は終わりを告げる。


「今日も綺麗に撮れてたな」


 男は画面を閉じ、満足げに自室の天井を見上げた。

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彼女の一日 寄鍋一人 @nabeu

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