1-4 熱くさせちゃった
「それでは最後に、イドラ先生。先生は全卒業生の発表内容を事前に確認し、それに合わせた素敵な音楽を作ってくださっていましたね。今日本番を迎えてみて、いかがでしたでしょうか...!」
「はい。どの発表もここまで積み上げてきた物を感じさせる物だったと思います。
私が送らせていただいた曲に完璧に調和した作品を見せてくれた班ももあれば、私の想定を超えてくるインパクトを出してくれた班もありました。
中には失敗してしまう班もありましたが...」
そういってイドラ先生は私達の方をちらっと見た。
「うわ...」
「ステラちゃん、ばれちゃってたみたい...」
「これは具体的に誰が、というのは言って良いのでしょうか...?」
今度ははっきりとこちらを見つめてくる。
ええーっ!だめです!
私は、両腕を大きく斜めに交差させて見せようとする。
そんな時、前方からうっ...うっ...というすすり泣く声が聞こえてきた。
それは喜んだり悲しんだりして泣いているわけではなく、どこか悔しそうな、それでいて申し訳なさそうな感じだった。
私は交差させようとしていた両腕を丸に...
しようとした時、隣から「ふふふーん」と鼻歌が聞こえてきた。
横を見ると、ニコニコ笑顔のルカは既に両腕で大きな丸を作っていた。
「ええーっ!?」
それを確認して、イドラ先生はすぐに話し始めた。
「はい。ステラさんとボルカニアさんの班のことです。
ステラさんが1度だけミスをし、ボルカニアさんがフォローして、あの結果になりました。」
「ええっ、本当に?」
「私には完璧に見えましたわ...」
会場がざわつく。
近くにいた生徒たちがこちらへ振り返る。
私は「どうもどうも...」と首をかいた。
ルカは「ほんとだよー」と言いながら、小さく手を振っていた。
「ステラさんは皆さんご存知の通り、当学院の創設者であるあの"大魔導師ルコニ"以来唯一の無詠唱魔法習得者です。
それは大変素晴らしいことですし、卒業後もこの社会において大いに活躍してくれることでしょう。
そんな彼女でも、今回ミスをしかけました。決して完璧な存在などではありません。」
そうだ。私はこの3年間、ルカに何度助けられてきただろう。
ふと横を見ると、ルカはイドラ先生の方...とはちょっとずれた方向を向いていた。
先の泣き声の方だった。
泣き声の主は私やルカと同級生のアズカット・デレクタ。
お高く止まった雰囲気を振りまいているが、誰より負けず嫌いな人...
発表では、彼女の班も私たちと同じ演劇スタイルの内容だった。
それはとても素敵で、素晴らしいものだった。
だけど彼女のことだから、たぶん、『こんなの完璧じゃない』とか言って悔しがってるんじゃないだろうか。
「...しかしそれと同時に、彼女の人生はここで終わりではありません。
彼女だけじゃない。ここにいるあなた達全員、人生はここで終わりではありません。
みなさんこの3年間でたくさんの学びを得たかと思いますし、あなたたち自身もそう実感しているかと思います。
でも、この学院を卒業することは、あなたたちの人生のゴールではありません。
今回思い通りに制作発表を行えた者も、惜しくも失敗してしまった者も。
これが完璧だと満足したり、失敗してしまったなと落胆したままで終わらせるわけにはいきません。
あなた達には、この次も、その次も、そのまた次も、その先の人生がまだまだあります。
ですから、あなたたちのこの先の人生、刻めるところだらけなんですから、何回でも挑戦して、何回でも悩んで...」
イドラ先生は俯いた。そして軽く息を吸って
「...あなた達の人生に幸あらんことを。以上です。」
そう言って、急いで会場を後にした。
会場が少しだけざわめく。
「......それでは閉会とします!聖ローネに、黙祷。
...各自解散してくださーい!実行委員の者は片付けをするので-」
一瞬静かになったものの、黙祷が終わるとまたその場はざわめき始めた。
「イドラ先生、熱くさせちゃったかな?」
私はルカの方を向いて言うと、
「ふふ、させちゃったね」
と、彼女は片目を閉じて返した。
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