1-3 魔法使いと鼻血

学院生活3年分の魂を込めた卒業制作発表を終えたばかりの私とルカは、舞台袖にいた。


「はああああああ、終わったあああああ!」

私は腕を思いっきり上に伸ばす。


「ステラちゃん、鼻血が出てますよー」

「ん...」

鼻を触る。

手が真っ赤になった。


私は複雑な魔法を使うと出血してしまう。


魔法使いは普通1種類の魔法しか使えないけれど、私はどんな魔法でも使うことができる。


だけどその代わりなのか私には魔法の得意不得意があって、例えば火をつけたり風を吹かせたりするのは簡単にできるけれど、氷を出すのはとても難しく、いつもこうやって鼻血を流してしまう。


「もう、無理するんだから...」

ルカがハンカチを出し、それで私の鼻を拭く。


「いいよ、自分で拭くから-」

「私のハンカチなんだから、私に拭く権利があると思うの」

「......」


黙って、鼻血を拭かれている。

ルカはとてもニコニコしている。私は失敗しそうだったけど...一応作品が成功させられたことがよほど嬉しいのだろう。

正直言って私も嬉しい。


「ごめん...ていうかありがとう。最後の。」


「...」

私の鼻を拭き終えたルカは突如俯いた。


「ルカ、どうしたの?」

私が聞くと、ルカは私の腕を急にガシッと掴んだ。


「許せない...最後なのに...失敗したらどうするつもりだったの?ねえ?」


「...」


「...なんちゃって。」


「やめてよ、怖いなあ。」


「というか、ステラちゃん、できたね、氷魔法!」


「はっ...うん!」


「よっ、本番に強い女!」


今のルカはちょっとテンション高いスイッチ入ってる。気持ちはわかる。


「ちょっと遅れたけどね...ルカが最後フォローしてくれたから間に合わせられたよ!」


「そう?」


「そう!」

私は右手の親指を立てた。


「それは良かったー」

ルカも同じく親指を立てる。

直後ルカは、私の右手の手首を優しく掴んだ。


「ステラちゃん、手パーにして」

「ああ、ごめんね!」

ルカは鼻血のついた私の手を拭いてくれていたんだった。


「よし、これで綺麗になったー!」

「ありがとう!」

「いえいえー」


「...はい!素晴らじい発表でじらっ!わたし、わだぢ...感動で涙がどまりまぜん〜ん〜っ......ん.......はい!それでは最後に、先生方からの総評ですっ!」

切り替えのできる司会の声が聞こえてくる。


「あっ...早く席に戻りましょう?」

ルカも切り替えが上手く、普段の落ち着いた口調に戻っていた。


正直、先生の長い話は聞きたくない。それにここからでも声は聞こえている。

「まって...まだちょっと鼻がムズムズして、」


「欠席扱いになって卒業できなくなってしまうかもしれませんよー」

流石に3年も一緒に暮らしていると、ごまかしは聞かないみたい。


ボルカニア・ベイカーは私の手を取って、観覧エリアの一番後ろへ向かった。

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