1-2 魔法の演劇

「風吹き揺れる草あれば」

ステラが唄うと風が吹き、


「雪積もる大地あり」

ボルカニアが唄うと粉雪が散る。


「朝あれば昼あり」

ステラの指先を伝い、炎がすうっと、それぞれ舞台の左右走った。

その後ステラは目を瞑り、祈るようなポーズをとった。


「昼焦がす熱あれば」

炎と共に舞台の横の方へ歩いていくボルカニア。

ぴたりと止まると手のひらを水平にして、炎泥の球を出す。


球に炎の亀裂が走り、今にも爆発せんという姿をしている。

観衆はそれに釘付けになる。


「夜凍えさせん熱となる」


ボルカニアが手首をくるっと回すと、

球は冷気を放つ氷の泥となり、シューッと音を立てて溶け落ちていく。


ボルカニアはそれを舞台の中央へ投げる。

それは冷気の線を描き、ステラの前でまっさらに消えた。


ステラは瞼を開け、手を上に伸ばす。

彼女の瞳と、散りゆく氷の粒たちと、そして手首にまいた銀色の細身の腕輪キューブがきらりと光って見えた。


「昼あれば夜あり」


そうすると、あたりは一瞬にして夜になった。


つい「おおぉ」と会場がどよめく。(さっきまでも、何か起こるたびどよめいていたけれど。)

ぶわっと熱気が上に舞い上がる音がして、またどよめきが立って。


それも束の間、夜空に無数の光が灯された。

まるで星のよう。


「夜あれば朝あり」

ステラの声とともに星たちはぴかっと閃光を放ち、ゆっくりと降り注ぐ。


その直後、星たちは一瞬にして消えた。あたりがまた時間帯通りの昼の青空へと戻ったのだ。


「大地揺らす炎雪溶かし」

また空を舞う火花がばちばちと光り、漂う。


「水滴となりて輝きを放たん...」


...わずかな隙を感じた。

私は自身のキューブに耳を傾ける。


▷))「ふぅーーーっ...」

ステラは魔法発動に遅れを感じたか、汗が垂れる音も聞こえる。


▷))「すぅー、秘めし炎空出でる為岩爆ぜよ炎泥爆砕グマルマストルバ

ボルカニアは息継ぎの直後、微かな声でとてつもない素早さで詠唱した。

そうすると火花はもう一度「パンッ!」と爆ぜた。


私は火花が爆ぜる音に驚いてキューブから耳を勢いよく離した。


だけどボルカニアの詠唱の合間から、ステラのは鋭い光を放っていた。


「わぁ...!」

声が上がる。


気がつくと、花火のように上がったその無数の昼の星は、雪の結晶となって会場に降っていた。


キューブの能力で、私には先のアドリブがバッチリと聞こえていた。

しかしそれを知らない皆にとっては、かえって遅れなど感じさせないグッドタイミングな演出になった。


会場は拍手で包まれた。


二人の魔法使いは礼をして、舞台袖に退場した。


正直に言う。これはとても


「...綺麗です。」


私も静かに、両手を何度も重ねた。

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