1-5 約束
私とルカがアズカット・デレクタのところへ向かうと、彼女の取り巻きちゃんの1人が、私に警戒心を示した。
「大丈夫。今は1人にさせてくれないかしら。私とばっかり話してたら、今日が終わっちゃうわよ?」
「でもっ...」
「後でゆっくり話しましょう。だから今は...お願い。」
渋りつつも、彼女に促されて取り巻きちゃん達は去っていった。
「よっ、アズアズ」
「ステラ・ベイカー、その呼び方はやめなさいと言っているでしょう」
学院で一番整っているはずの彼女の顔は、目の下が真っ赤に腫れてぐしゃっとなっていた。
でも、なんだか心地いい空気が通ったような、今までにないくらい晴れやかな顔をしていた。
「約束忘れたの?アズアズって呼んでいいって言ったよね?」
「忘れてないわよ!てかそんな約束取り付けてないし...だからその...約束だから、早くしなさい」
そう言って彼女は真剣な眼差しで、私とルカに向かって両手を差し出した。
私は右手を彼女の右手とがっしり組んだ。
「あなたたち、やっぱりやるわね、おめでとう。でもね、これはただの1回戦。
「それならステラちゃんが主役の舞台を演出してみるのはどうかな、きっと素晴らしいと思います」
アズアズの手を握ったまま、ルカが言う。
「それは嫌。だってそれじゃ勝負にならないじゃない。それにこの子はちゃんとした演技はそんなに上手くないじゃない」
ルカがむすっとした顔をする。
「な、何その顔は...でもまあ、私が勝った後なら、やってあげてもいいかもね。そうしたら最高に輝かせてあげる。」
「じゃあ、約束だね。」
そう言って私は左手でも彼女の手を掴んだ。
「ステラちゃん...あれ。」
「...ああっ!そうだった!」
えっ、何?と困惑するアズアズを横目に、握手を解いた私はポケットから1枚のブブヤツリクサ紙を取り出した。
「アズアズ、お願い、3人で撮ろう?」
彼女の<撮影>の魔法で記念に3人の姿を残しておこうと決めていた。
「...ええ、わかったわ!では...」
彼女が両手の親指と人差し指で窓を作り、詠唱を始めようとする。
「ちょっと待って!」
「な、何?」
「3人で撮るの!ルカ、お願い!」
「空よ空、僅かなこの箱凍えさせ、四辺の鏡現したまえ、
ルカが詠唱を終えると、その場に氷の鏡が出来上がった。
「こんなこともできたのね...」
少し羨ましそうにするアズアズ。
「ふふ、すごいでしょ」
「それじゃあ3人で撮るから、ほら寄って!」
アズアズを真ん中にして、紙を持った私と鏡を持ったルカが鏡に入るように寄る。
「それじゃあ撮るわよ。小さき窓よ、眺めし姿を白紙に描け、
左手に持ったブブヤツリクサ紙がじわりと熱くなる。
3人で覗き込むと、3人の姿が映し出されていた。
「なんか、ちょっと照れ臭いわね...」
「アズアズ、」
「何かしら」
「ありがとう」
アズカット・デレクタは少し黙ってから、答えた。
「ええ、こちらこそ。」
ーーー
^ivi^[ネコニス'sTips]
ブブヤツリクサは、パローナツ東部で生育されている植物です!
ブブと呼ばれる悪魔をブブヤツリクサを編んで作った竿と網を使い、ブブの棲家ごと釣り上げ退治した...という伝承からその名がついたようです!
ブブヤツリクサで作った紙は丈夫で長持ちですが、製造する職人さんがほとんど残っておらず、現存するものを消費していくだけとなっています...。
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