37.決着と旅立ちの髪すうはー
「カズサさん!」
「フワア!」
レアの声を聞くと、私はすぐさまオノマトペを飛ばした。
上空から重いものが落下してきて、ぼふんとキャッチされた。
それはホルダー……マジシャンふうの格好をした小太りの中年男だった。
「わ…私は……姿が戻って…い、生きている……?」
「全く、わかってないですね。」
「………ひいっ!」
レアは目下怯えたホルダーに言った。
「人のお家を盛大に壊すだけに飽き足らず、年端もいかない私をさらった挙句口説き落として、心を鷲掴みにして......だから大好きなんです、カズサさんのことが、世界で一番......!はあ、はあ.........!!!」
「いかれてる…!!この狂人が!!!」
「………………」
もはやホルダーにわざわざ言い返す者など、誰もいなかった。
レアは言った。
「ホルダー、あなたはあなた自身が出したエネルギーの球に飲み込まれて、あのままいけば今はもう死んでいるはずでした。
私はあなたが事切れるその寸前に、<ステータス移動>でステータスを貸与した。
人が五体満足で生存可能なギリギリのヒットポイントを、あなたに移動させた。」
「まさかそれで命を助けた、だから感謝しろ、とでもいうのか!?そんなことを、私が一度でも頼んだというのか!?この自分勝手で恩着せがましいクズどもが!!」
「そうですよ。」
レアは冷淡に言った。
「私たちはあなたと同じにはならない。人殺しにはならない。……カズサさんは、そう言いました。
そして私は、あなたを生かすことに決めた。
これがどういう意味かわかりますか?」
レアは、水晶玉をホルダーに向けて覗き込んだ。
「わかってたまるか!」
ホルダーは手を出して水晶玉をかっさらおうとしたが、すんでのところでレアはさっと引いた。
「魔力残量、ゼロ。もう巨大な姿に化けることはできないし、もちろん他のスキルも使えない。
あなたはもう二度と、人を傷つけられない。」
「…………………………は………え……………は………?」
ホルダーはとうとう状況を理解したのか、目を点にして狼狽えた。
「そんな………は………あ…………そんなことって………………………うわああああ」
「そんなあなたでも!!」
錯乱し叫びだしそうになるホルダーの胸ぐらを掴み、レアは言った。
「……そんなあなたでも、やれることが一つだけあります。」
「え…………………?」
「それは、償うことです。」
「え……………は……………?」
「牢獄で、自分の罪を………自分のしでかしたことを、自覚し続けてください。
消えることのない後悔に、苦しみ喘いでください。
それだけが、人から大切なものを自分勝手勝手奪い続けたあなたに、慈悲深くもたった一つだけ残された、生きる意味です。」
レアがホルダーの胸ぐらから優しく手を離すと、駆け付けていた警察官達にホルダーは取り押さえられた。
「は………はっ!???????そんなのっ、そんなのっ!やだああああああ!!
やめて!!たすけてっ!!たすけッー
はっ!!ま、魔王様!!お助けください!!!どうかご慈悲を!!!嫌だっいやだあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
ホルダーは幼児のように喚き散らしながら、連行されていった。
それを見届けると、レアは振り返った。
レアは涙を滲ませると、黙って私の胸に飛び込んできた。
「レア………頑張ったね」
「………はい」
するとレアは顔を上げる。そこには笑顔のレアがいた。
「わ、思ったより元気でよかった」
「えへへ、ちょっと疲れちゃいましたけど、カズサさんエネルギーですぐに回復しました。」
そう言うと、また私の胸に顔をうずめて、深呼吸を始めた。
「すううううううう、はーーーーーーー」
「レ、レア、ここでは人も見てるし………」
「見せつけてるんですよ」
彼女は顔をうずめたまま、もごもごと言った。
「すううううううう、はーーーーーーー」
「ははは………」
するとレアはちょっとだけ顔を上げて、もじもじするエクリに向いて言った。
「エクリちゃんも、来ませんか?遠慮しなくていいんですよ」
レアはにやあと目を流した。
するとエクリはこちらにやってきて……
「………んっ!?」
レアはつい声を出した。
エクリが抱きしめていたのは、レアの背中だった。
「すううううううう、はーーーーーーー」
エクリはレアが私にやったように、レアのつむじを吸っていた。
「………ま、まあいいか」
レアはなんだか恥ずかしそうに顔を赤くすると、エクリに吸われながら私を吸った。
「ホルダー捕まっちゃったね」
「バッドエンドかよ」
「でもホルダー、あんな悪役の演技もできるなんて、流石だったな」
「すごい盛り上がりだった!一体感が半端なかった!楽しかった!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
会場に呑気な拍手が巻き起こった。
……………
数日後。
「可愛ーいっ!」
聖女ピスカ=アラカルト=トーストレイズンはつい嬉しそうに言った。
朝目が覚めるといつの間にか耳と尻尾の生えていた白い髪のあの子を、撫でまわしていた。
ご機嫌な探偵聖女の声色とは反対に、エクリの顔は不機嫌そのものだった。
「ところで、エクリはわかるけど、ピスカはなんでついてきてるのさ。聖女としての仕事とかは、大丈夫なの?」
旅路の最中、私は桃色髪の聖女に問いかけた。
「え......いや、別に!ついてきてるわけじゃないです!偶然!たまたま道が同じだっただけですが!?」
「だったら離れて」
エクリはピスカを優しく突き飛ばした。
「わあ」
ピスカはふらりと地面に倒れ込んだ。
「そんないけずなこと言わないでくださいよお」
ピスカは立ち上がると、土埃をぱんぱんと払った。
「ストーカー」
「ぴ、ぴええ」
「なにがぴ、ぴええなのか」
「エクリちゃん、そんなひどいこと言わなくても」
「ストーカーはストーカー。」
「ぴええ」
「一緒に行きたいなら、一緒に行きたいって言えばいいのに…。」
エクリがぼそっと言った。
「………………その!
えっと...私もご一緒、させてくれませんか...…!」
「……………」
私たちは顔を見合わせた。
そして数秒後。何も言わずに歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください、何も言わないってことは、いいってことですよね!?ねえ、ねえ!?」
「いいよ。私はもちろん大歓迎!」
「ちょっとイヤだけど、ダメではない」
「仲間は多い方が楽しいですもんね!ふふっ。」
「ピスカ、これからもよろしく!」
私は手を差し出した。
「……はい!」
探偵聖女は手をとると、満天の笑顔でそう言った。
「ふ、ふふ。本当にいいんですか?
や、やったー!みなさんだいすきです!特にエクリさん、お耳触らせて〜ごふっ!?」
賑やかな旅になりそうだと、私ははははと笑った。
-第3章『探偵聖女と渚の殺戮者編』完
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