34.プロフェッショナルの祈りを見ててふふ
ピスカは歯切れが悪かった訳を話した。
「確かに、私の祈りのスキルで彼らを浄化することは可能です。
でも私は、聖女です。人間を殺めることはできない。」
「殺めることはできない?どういうことだ?浄化ならビーチでもやっていただろう?」
カキが訊いた。
「はい。ですが今ここにいる彼らは、死してゾンビになったわけではない。強固な催眠スキルでステータス上の種族情報を人からゾンビに書き換えられただけ。
言うなれば魂そのものが腐乱しているのではなく、ただ瘴気に外皮が汚染されているだけのような状態です。だから……人間に戻せる可能性がある。
このままの状態で浄化するのは、人を殺めるのと同義です。
生者に戻ることが二度と叶わない、ただ地上を彷徨い続けるしかない魂を浄化するのとは、訳が違うんです。」
「ある意味魂は腐敗しているようなものだろう。生きている人をおもちゃのように玩ぶ様を、名作だ名作だとまるで高尚なものかのように言って楽しんでいる下品な連中だ。」
「否定はしません。
でも、これは私の矜持なのです。たとえ相手がどんなに汚れていようと、どんなに恐ろしい悪人であろうと、殺めてしまえば私はもはやそれと同類です。
どれほど血や泥や糞尿にまみれていたとしても、苦しみ助けを求める者がいるのなら、私はその手をとります。それで手のひらが汚れようと構いません。
ですが、私自らが汚れた存在になることだけは絶対にしません。
救える可能性が僅かでも見えているのに、それを見なかったことにして諦めることだけはしたくない。
それが聖女という生き方を選んだ、神に顔面を曝し続けることを選んだ、私の矜持なのです。」
「ギャンブラーなのに?」
私はいたずらに言った。
「そ、それはいいんです!神様も納得してくれていますし!ギャ、ギャンブルは楽しいんですよ!?
そうじゃなくて、殺しはしないって話なんです!」
わたわたと手を動かして弁解するピスカ。
「そんなこと言ったって、どうやってこの状況を打開するというんだ。
そこまで言うなら、策があるんだろうな。」
「………え、えっと、そ、それはその、あるといえばあるといいますか、そのー」
冷や汗を垂らして後頭部をかくピスカ。
「だったらエクリが殺す。」
エクリが言った。
「エクリはどんな相手でも殺せる。エクリのお父さんは罪人を裁く仕事してた。
エクリにもその力、ある。」
「いけません!エクリさんはおそらく一人でも人を殺した瞬間に狩人ジョブのステータス上昇分が消滅してとてつもなく弱体化する、そうなれば逆にあなた自身が木っ端微塵になってしまう!」
ピスカは止めた。
「うだうだうるさい。そんなのやってみなくちゃわからない。」
「……っ!」
「………今日まで選択を渋ってきたエクリにも責任がある。だから、エクリの手で終わらせる。」
「エクリちゃん!」
レアが声をかけた。
「レア、またね。」
そう言って駆け出そうとするエクリ。
「待って!」
「…まだ何かある?」
呼び止めたのはピスカだった。
「あります。方法なら。誰も死なせないって言ったばかりじゃないですか………。
それを、試させてください。」
滝のような汗を拭ったピスカは、目を閉じて祈り始めた。
「………」
「浄化じゃあだめって話だったんじゃ?………っ!まさか!?」
カキは驚いた。
「この期に及んで賭けてるって言うのか……!?新たなEXスキルの発現に……!?」
ピスカはにやりと微笑した。
「賭け...何度聞いてもいい響き...私の大好きな言葉です。ふふ。
決められたスキルツリーを踏んでいく通常スキルと違い、EXスキルは状況に応じて必要な形で生成される。」
「た、確かにこんな特異な状況、特殊なスキル習得の条件に偶然当てはまる可能性が全くないとは言い切れないが、いや、それにしたってー」
「今更運任せの神頼み、意味ない」
「黙って見てください!私は聖女ですよ!?普通のお祈りじゃありません、お祈りのプロフェッショナルなんですよ!?」
エクリはレアに肩をぽんと叩かれると、そういうからにはと黙ってみていた。
私たちがゾンビを付近から突き放してその場の安全を守っていると、ピスカはすぐに瞑想世界に入っていった。
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