31.ホルダー!ホルダー!ホルダー!ホルダー!ニマア

走り出したエクリ。しかし彼女はそのまま私を通り過ぎた。

「!」


爪を立て、牙を剥き、エクリが飛びかかったのはホルダーの方だった。

「わっ、来るな!わあああああ!!!!!!」


その瞬間ガンッ!っと耳をつんざく金属音が鳴った。


「殺させや…」


エクリが噛み付いていたのは、カチンコチンの鋼鉄と化した私の腕だった。

私が腕を出して、その攻撃を防いだのだ。


「…しない!!」


私はそのまま、荒ぶるエクリの両腕を必死に掴んだ。

「ガルルルルルッ!!」


「は、あはは!よーしよしいい子だそれでいい!今まで厳しく躾けてきた甲斐があったというものだ!何がこんなことはさせない、だ!みたか!これがお前が必死に守ろうとしてきた奴の本性だ!」


「こいつ、カズサがかばってやったというのに…!!もういいだろうムシオデカズサ!こんな奴殺させてしまえば!」

カキがそう言っている間にも、ホルダーは下品な声を上げて嘲嗤っていた。


「私は、こいつがどこでどう死のうがどうでもいいよ。

けど、この子のことは、人殺しにはさせない。


この子は、エクリちゃんは、砂浜でこいつに殺された人達を少しでも助けた。そんな優しい子を、こんなやつと同じ人殺しなんかにはさせない。絶対に。」


「絶対にだと?笑わせる。無駄だあ!もうそいつを元に戻す方法はない!」


「無駄なんかにはなりませんよ。」

そう言うと、ピスカは得意げに続けた。


「今エクリさんの首元で鈍く光ってる赤い宝石、あなたが手のひらから似たような瘴気を出していたのを見ました。確かに、その時から光り始めました。


これがどういう意味かわかりますか?私にはわかります。」


ピスカは振り向いた。

「出番ですよ、ヴィヴァーニオ・ギルテさん」


「…お、俺……!?」


「あなたはいつもやっていることをいつも通りやればいいんです。わかりますよね?」


「…………えっ、いつも?あっ、ああ、まじで!?でも、いいのか、あんな上質なステラベリークリスタルから………………いや、そりゃ、そんな場合じゃないよな、何言ってるんだ」

アロハシャツの男は頭をかいた。


「よし!それが少しでも罪滅ぼしになるんなら、や、やってやる!」


「まさか………おい、やめろ!!そんなことをしても無駄だ!」


「ふっ、慌てましたね!ビンゴです!心置きなくやっちゃってください!」


「こ、こい!!」

ヴィヴァーニオが取り出した小さな壺を向けると、鈍い赤色光はエクリの首元から壺へとみるみるうちに吸い込まれていった。


「お……おっしゃあああ!!!」

そう言って壺の蓋が閉じられると、色を失った首元の宝石がバキリと音を立てて割れた。


それと同時に、エクリも意識を失って私にもたれかかった。


「あ、あ、あ………………」

ホルダーは絶句していた。


すると観客たちが声を出し始めた。


「ホルダー負けないでー」

「まだ希望はある!奇跡は起こる!」

「今までがんばってきたじゃないか、勝利のために立ち上がるんだ!!」


「ホルダー!ホルダー!ホルダー!ホルダー!」


私はその男に言った。

「むなしいよね。

人からの応援っていうのは、自分を後押ししてくれる心強い勇気になる。

けど、いくら人から支持されようと、自分自身が納得できていなければ、幸せにはなれない。


それが私にはわかる。


だから……これで今のお前の目論見は終わったんだよ、ホルダー。これからはー」


「あ、あ………………あーあ」

ホルダーはニマアっと笑みを浮かべた。


「……」


「やってしまったなあ?せっかく私が、やめろと言ってあげたというのに」


「な、なんだ………?も、もしかして、まずかった感じ……?」

ヴィヴァーニオの顔は、ホルダーの声色に気圧されて青ざめた。


「エクリミナルプス………………彼女の本体はあのステラベリークリスタルだった……!」

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