30.生かさずグサア殺さずグサア
「おい、おい!ムシオデカズサ!!」
「……はっ!」
何度か呼びかけられて、私は我に返った。
元居た世界じゃなかなかお目にかかれないような創作物的胸糞展開にあてられて、怒気にトリップしかけていた。
「彼らは一体なんだったんだ、説明しろ!」
カキ・コンドル・フロウデンはわずかに動揺した様子で訊いてきた。
私はその様子を見たおかげか少し落ち着いて、話した。
「……蜘蛛の糸ってユニークスキル。複数体のパペットを操れる。
蜘蛛の糸を経由すればー」
「ー催眠スキルに本来必須なはずの行動の事前指定を、事前ではなくリアルタイムで行うことができる、ということか」
「……ああ、うん。」
そう言って蜘蛛の糸スキルの持ち主であった人物……勇者の方を見た。
するとそこでは、ピスカ・アラカルト・トーストレイズンが祈りを捧げていた。
それを終えるとピスカは額の汗を拭い、振り返って言った。
「ええと、みなさん回ったんですが、なんていうかその、魂が………あるけどないというか、言うなれば魂塩漬けされたような状態で、ですからもう祈りを捧げて浄化するしかー」
「それでアンデッドにはならないんだよね、ありがとう!」
私は言った。
「……はい!」
ピスカは答えた。
みんながこちらに集まってきた。
「これで、もう終わりだな。奴が持っているのがもはや単なる催眠スキルでしかないのなら、ここにいる我々の敵ではない。」
カキはそう言うと、サーカス団長の男に手帳を向けた。
「名乗ってやる。ヒトァイダ合衆国連邦捜査局魔物犯罪対策課のカキ・コンドル・フロウデンだ。お前の罪状は、催眠によるスキル発動の強要、及び催眠した者に傷害等犯罪を行わせる行為。
そして、魔族の特有部位を認可なく切除する行為だ。逃げるなよ?許可が出ていないことはとっくの昔にここの市長に確認済みだ。」
そう言ったカキはレシーバーを手にとると、続けた。
「たった今お前の逮捕状が出たぞ。ホルダー、お前の選択肢は二つ。この場で処理されるか、大人しく投降して牢獄で慎ましく生きながらえるかだ。答えろ!」
会場はざわざわとしていた。
「おい、どういうことなんだ……?」「そんな、ホルダー嘘だよね」「だから、そういう仕込みなんだろ、これでギャーギャー騒いでる奴はどうせ最近見始めたばっかりの新参なんだろうな」
「最後に……話させてくれ……我が娘と」
そう言ってホルダーは地上に降りてきた。
その間にカキは「催眠防止の耳栓だ、音自体は聞こえるようになっている。全員つけておけ」と小声で言い、こっそりと籠を回した。
「大事な大事なわが娘……エクリミナルプスよ……………」
そう言ってホルダーはにじり寄ってきた。
「さあ、わが元へー」
「……………ちがう」
「何?」
エクリは言った。
「エクリはお前の娘なんかじゃない……………エクリのお父さんは、お前に殺された!
エクリはお前のところになんか、いかない!!」
「ふはっ、はははっ、はっはっはっはっは!!!」
それを聞いてホルダーは突然笑い出した。
「私のもとに来ない?無理だ!
そうだ、お前を攫うためにお前の親を殺したのは他でもない。私だ!
だからこそ私を殺したいんだろう?
憎くてたまらないんだろう?今すぐ私に飛びかかって首を噛み千切りたくて仕方がないんだろう?
ならば来るんだ!エクリ・ミナルプス!お前のお望み通り、私を殺してみせろ!!!」
「な、なんて緊迫するシーンなんだ!」「ホルダー、死なないで!」
「うっ、グルル……!ウガアアアアアッ!!!!」
エクリはたまらず飛び出した。
「エクリちゃん!!待っー!?」
レアはそう言いかけたが、ステータス移動の反動か、体が思いっきりぐらついて膝をついた。
するとホルダーはニヤリと笑って、手のひらを怪しく突き出した。
直後、手から紅色の鈍い光が放たれたと同時に、エクリの首元も同じく鈍く紅く発光した。
エクリは苦しみだし、地面にぶつかるように倒れ込んだ。
「あっ、グアアアッ!!!!」
「ふはっ、ふははははははは!!!!!!どうした、突然地面にディープキスなんかして!子供のくせに!痛かったか?」
ホルダーは少しの間笑いこんだ。が。
「がはっ!?」
直後、ホルダーが自身の胸を見ると、そこには燃えさかる剣が刺さっていた。
否、剣じゃない。グ、サ、アの文字で作られたオノマトペだ。
「あ、ああ………がああああああああああああ!!!!!!」
「痛いか?ホルダー、私がオノマトペを飛ばした。」
「ぐ、フハハハハッアぐはッ!!??」
オノマトペで、今度はホルダーの腕を切り落とした。
切断面は、炎で焼け焦げて止血される。
「な、何故だっ!?貴様ムシオデカズサのオノマトペ具現化は口から発した音声を炎などに変換させ、射出するスキル!なのになぜ、喋らずにオノマトペが射出されている!?」
「増えたんだ。
きっかけは、海で雨雲を晴らした時。私が私が漫画家だということを再認識できた時だった。
その時から兆しはあった。
だけど形になったのは、その時じゃない。」
「ガあっ!?」
ホルダーの四肢をすべて焼き切り、出血多量では死なせない、生かさず殺さずの状態にした。
「この世界で確かに暮らしていた人間が、自分の意思を消され言葉の出せない廃人にされ、お前にお人形みたいに好き勝手動かされるところを見た時に。
もうこんなことはさせないと決めた。そうしたら、生み出していたんだ。
喜びと怒り。自己と他者。そして…探偵と聖女。一見異なりながらも実は密接な要素たちが、気づかせてくれた。
「く、来るなッ、この化け物があ!!!」
「漫画にはさ。白くて四角い、ナレーション用の吹き出しが出てくることがあるでしょ。
スキル名は…パッシブチートスキル【ナレーション・ヲ・ライト】
私は口で
どっちもさせてもらう。私は人間で、漫画家だから。」
苦しい顔をしていたホルダー。
しかし突然何かを思い出したかのように、にやあと笑った。
「フッ、フハハハハハ!
何やら勝利を確信して語っていたようだが………………無駄だあ。見ろ!!」
「エクリちゃん……!」
「ーッグルル…………!!」
レアが背中をさすっているエクリは、うずくまりながら苦しんでいた。
「私を殺そうがもう遅い!
エクリミナルプスは私の命令を受け取った!私が死して尚、その命令は絶対遵守される!奴はもはや、本能のままただ殺戮のみを繰り返す血に飢えた獣となったのだーッ!
それを止めるには、そいつ本人を殺すしかない!!!フハハハハハーッ!!!!!」
「グアアアッ!!」
エクリは走り出した。
「エクリちゃん!!」
そして駆け出したエクリが向かったのは、私のいる方だった。
「ーッ!カズサさん!!」
レアは叫んだ。
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