24.Answer2■■■■スキルを持つ人物

「私はあなたが殺ししていないことを知っています。」


「なっ...!?」


「一見自分が不利に見える情報も、真実を明かすためには正直に言わなければなりません。

真犯人を見つけるためなんです。


私は中途半端なところで推理をやめたりしません。


私はあなたを都合のいい憎しみの矛先になんか絶対にさせません。

そんな怠慢のために犯人でない人を、犯人にしておいたりしません。


私は必ず真実にたどり着きます。


だから、協力してくれませんか?


私を...いえ」

聖女は首を横に振って、言った。


「私のを、信じてくれませんか?」


それは諭すような純粋な聖女の微笑みではなかった。

かと言って完全な正義感でも、充足した好奇心でもなかった。


慈愛、正義、好奇心、その全てを内包しながらも、そのどれもと異なっていた。


混ざり合っているのに混ざり合っていない。溶け合っているのに溶け合っていない。


純度100%の混ざり物が、ただ【探偵聖女】と呼称するしかない無二の人が、そこにはいた。


「...」

男はその感情にあてられて、仮初の安堵を感じ、そして真実に近づくことに恐怖し、それからはそれらをぐるりと1周した本物の安堵を味わった。


強張っていた顔が緩んだ男は、それを隠すために俯くとボソっと「こんな人間がいるのかよ」と呟いた。


「あなたは被害者の血を砂浜から丸ごと移動させた。それは間違いありませんね。」


「...ああ、そうだよ。俺が移動させたんだ」


「ついに認めたわねえ!やっぱりそいつが犯人なんじゃない!」


「でも、あんなに大量の血を丸ごと移動させるなんて、どうやってやったんだよ...?」

観光客の1人が言った。


「スキル、だよね」

私が言った。


ピスカは私に、その通りだとにやりとした。


「ああ、そうだよ!」

男は言った。


「認めたわねえ!って...何を?」


「血を移動だと?重力操作だのテレキネシスだののスキルは、よっぽど上等な魔法職でないと使えないという話だが...」

眼鏡の男は疑問を投げた。


「奴らは魔力保持のために、常に特製のローブを着込んでいる。

あなた、その格好から見てとても魔法使いには見えないが...聞かせてくれ、ジョブはなんだ?」


冷徹に見下げる眼鏡捜査官に、容疑者の赤アロハ男は答えた。


「服飾師だ」


「...服飾師に血を移動させるスキルがあるなんて、聞いたことがないが」


「スキルの名前は<病棟の赤いドレス>。

あらゆる"物"から"赤色"を取って、その赤色を別の物に"移動"させるスキルだ。


それで普段から持ち歩いてる専用の布に、砂浜の血の色を写したんだよ!今も車の中にある!」


「はあ!?そんなふざけたスキル聞いたことな-」

「えっ!?赤色ってもしかしてあなた、あの世界的有名ファッションデザイナーのヴィヴァーニオ・ギルテさん!?」


怒れる観光客の声を、別の観光客の驚きの声がかき消した。


「だったら、なんだってんだよ」


場がざわざわとする。

どうやらかなりの有名人らしい。


「す、すごい...」

「でも、あのヴィヴァーニオさんがこんな粗暴な口調の人だったなんて、ちょっと幻滅かも...」


眼鏡の捜査官カキ・コンドル・フロウデンが訊いた。

「<病棟の赤いドレス>だったか?

服飾師スキルにそんな名前は聞いたことがないが、獲得条件はなんだ?」


「服飾師スキルじゃねえよ」


するとヴィヴァーニオ・ギルテは私を見た。


「おい、あんたステータスが見えるんだろ?だったら犯人がわかってるんだよな?俺は殺してないって、そこの聖女サマと証明してくれるんだよな...?」

私に言った。


「うん」


「じゃ、じゃあ、信じるから...」

男は小声で言った。


「信じる?」


そして大声で言った。

「...だっ、だからよお!わかんだろ!俺のスキルが何由来なのか!

俺が言ってもどうせ誰も信じねえんだから、てめーさんが早く言ってくれよ!!」


私は言った。

「<病棟の赤いドレス>は、だよ」


「ユニークスキル...だと!?」

衝撃が走った。


全員が驚いた。


「皆さん、驚きましたよね、それもここにいるが。」

ピスカは言った。


「驚いてない人もいるかもよ?」


「いいえ。確かに<心魂透視ソウルウォッチャー>で確認しました。

ここにいるの魂に、揺らぎが生じた。一言で言えば"驚いた"ということです。」 


「でもそれは、ユニークスキルが珍しいから...じゃ、ないよね!?」

私はに問いを投げかけた。


......そうですよね?」


また揺らぎが生じたと言わんばかりに、探偵聖女は微かに笑んだ。

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